あと少し!が開かない、よこ開脚をはばむ原因を考える

わたしの長年の疑問、よこ開脚が実は微妙に180度じゃないんです。

たて(前後)開脚はとりあえず180度OKかなと思っているんですが、よこがなぜか。行き詰まり感。

正面から見て、分かる人にはわかるとおもうんですが・・

右のかかとがヨガマットのラインところにあるのに、右脚から骨盤にかけてラインのやや内側に位置している。

真横から見るとこんな感じ。

わずかにスキマがある・・。

たぶん角度にしたら175度とか? ↓こんなイメージ。

ほぼ直線でいいのではと思いつつ、なぜなのか?というのをやっぱり解消したくて、少しずつ調べていました。

で、その結果、ほぼ確信を持って(!)わたしのよこ開脚をはばむ原因が絞られてきたのでお伝えしたいと思います。

ちょっと長いけど、同じような悩みをお持ちの方はぜひご一読ください!

(2022年3月追記:)

動作・映像分析ソフトを導入したので、さっそく計測してみたらはやり180度まであと少し足りない状態でした。

 

1.そもそもヒトの脚はどこまで開くものなのか?

180度に達しない原因を解説する前に、よこ開脚の原理をかんたんに解説します。

 

1-1.股関節の基本の動き(6種類)

股関節には骨格的に6種類の動きがあります。

相変わらず画力低い・・すみません。

水色にマークした右あし部分に注目して見るとわかるかと思いますが

  • 脚を前に出す屈曲(くっきょく)、後ろに動かす伸展(しんてん)
  • 体の外側に出す外転(がいてん)、内側に動かす内転(ないてん)
  • 脚のつけ根部分を外側に向ける外旋(がいせん)、内側に向ける内旋(ないせん)

という動きがあります。

 

 

1-2.それぞれの動きで開く角度

それぞれの動きについて、一般的にこれくらい開きます、というおおよその角度が、どの解剖生理学のテキストでもだいたい記載されています。

ただ、少し細かいのですが同じ動きでも、ひざを曲げているのか伸ばしているのか、自分の力で動かせるのか(自動)他者あるいは自分手で支えるなど他の力を借りるのか(他動)によってそれぞれ開く角度は異なります。

動きによっては、ひざを曲げているほうが角度が小さい場合もあるし、自分の力(手で引っ張り上げる)、他人に支えてもらう力、あるいは床やモノで支える力かなど、かなり多くのパターンがあります。

▼ひざを伸ばしたままの伸展、ひざを曲げる、床の力を利用するなどで可動域が変わる

このほかの動きも含めて全部書くと細かすぎるので、ここでは日本リハビリテーション医学会評価基準委員会から出ている代表的な可動域を参考までに記載しておきます。

動き
体勢

屈曲
仰向け
伸展
うつぶせ
外転
仰向け
内転
仰向け
外旋
仰向け
内旋
仰向け
角度 125度 15度 45度 20度 45度 45度

 

そして、よこ開脚で使う動きは6種類のうち外旋・屈曲・外転の3つです。

なんとなくお分かりかと思いますが、通常開くとされている角度で単純に考えると180度いかないのでは?って思いませんか??

そうなんです、股関節の組み合わせだけでは、よこ180度は開かないのです。

 

1-3.よこ開脚は「外旋+屈曲+外転+腰椎前弯」の組み合わせ

よこ開脚は外旋・屈曲・外転の3つプラス腰椎を前弯(ぜんわん)させる(前に倒す)動きの組み合わせで形成されています。

開脚ストレッチのレッスンで骨盤のよこを抑えて前後に動かすストレッチを取り入れていますが、腰回りの筋肉が硬かったりすると動かしづらい動作です。

 

そして骨盤を前に倒す(前傾)と腸骨大腿靭帯という靭帯がゆるみます。(下記写真の水色のほう)

骨盤が倒れることで主に外転の可動域が大きくなります。靭帯が硬い、あるいは骨盤回りの筋肉が硬いと前傾ができずに外転の角度が制限されるということになります。

 

 

2.よこ開脚180度まであと少しが開かない、考えられる要因

ということで、よこ開脚の組み合わせの動きをそれぞれ分解して検証すると良さそう。

そして、冒頭に申し上げたように今回の「あと少しが開かない」は、わたしの身体が対象なのでそれぞれ分解してみていくとこのようになります。

1-2.で記載した一般的に開く角度だけでなく、プロダンサーの一般的な角度(参考文献参照)も合わせて比較してみました。

  屈曲(自動) 外転(自動) 外旋(自動)
バレエダンサー 不明 120~130° 52~59°
筆者 130~140° 120~130° 右50° 左40°

ちなみにわたしが測定に利用したゴニオメーターはこちら

プロのバレエダンサーと比べると、気になるのはやはり外旋。

なぜかというと屈曲と外転は、自動(自分の意志で働かせる随意運動)運動での測定ですが、脚を床から上げる動作のため関節角度だけでなく筋肉量や質も左右します。なので、筋肉による違いも少なからずあると考えられます。

しかし外旋についてはそれがありません。むしろ骨盤の助けを借りないように床にしっかり腹ばい体勢を維持したままの測定となるからです。

 

ちなみに外旋の動作はバレエの基本立ち姿勢となる”ターンアウト”というと想像しやすいでしょうか。

このような計測器を使用している雑誌論文もありました。この場合は両足の間の角度です。

バレエ経験者で100°、特に柔らかいバレエダンサーで110°、一般の人は85°くらいだそうです。

先ほどの外旋角度をそれぞれ2倍するとだいたい一致しますね。わたしはこの体勢でもおおよそ90°くらい、やはり外旋がネックといえると思います。

 

2-1.外旋角度に影響のある部位① 大腿骨頸部の関節角度

ということで、外旋に影響している部分を細かくみていきたいと思います。

外旋に影響するものでまず最初に関節部分に注目します。

関節部分とは、骨盤と大腿骨(太ももの骨)をつなぐ部分。ざっくりいうと、O脚・X脚とか、内また・外またに影響する部分です。

わたしはまぁまぁなO脚なので、この関節部分は何かしら影響しているに違いない!と思っていましたが、調べてみた結果、かなり影響していました。

 

関節部分を明確にするにあたってさらに2つの場合分けが必要となります。

まずひとつは、骨盤と脚を正面から見たときの、つなぎめにあたる大腿骨の頚体角(けいたいかく)。下の写真の赤いところに注目。正常な状態はこの角度が125度です。125度より大きいとO脚、小さいとX脚。

これと比べると、わたしの股関節は一応正常な範囲の様子。(下の画像は2020年にDEXAで全身骨密度を計測した際の結果報告)

画像の右を拡大したのが左側で、さらに左股関節部分を拡大したのが左下。赤いラインはipadで追記しましたが、編集時に使ったipadの定規分度器によれば121度と出ていました。

 

むしろ、ひざから下のアライメントのほうがかなり目立つというか、ひどいですね。。

 

2-2.外旋角度に影響のある部位② 大腿骨のねじれ

そして、関節と大腿骨の結合部にはもう一つ重要な角度があって、骨盤と脚のつなぎを上からみたときの角度。大腿骨のねじれ角ともいいます。

▼撮影アングルが両者で少しズレていますが、こういう角度。正常より前(正面側)にねじれているのを前捻、後ろ側にねじれているのを後捻といいます

▼前捻・後捻と脚の向き(内また、外また)の関係図はこちら。前捻=内また、後捻=外また

開脚と影響するのはとくに前捻のほうで、前がわへの捻り角度が大きいと外旋は制限されて内またになる傾向になります。

新生児や幼児の場合は、25~40度くらいに前がわにねじれていて(前捻)、成人になるにつれて、正常な角度になるといわれています。

が、

正座を崩したような座り方(いわゆる女の子が取りやすい体勢とされている座り方)を続けていたりすると、正常に戻らずに前捻のままになるそうです。

回旋可動域は大腿骨頚部の前捻に依存している。(中略) 幼児によっては、膝を曲げ、股関節を内旋して両踵の間の地面に座る悪い習慣がある。骨格がまだきわめて柔軟である小児の場合、これは、大腿骨の内旋と頚部の過剰前捻を惹起しうる。このような状態を改善させる方法がある。小児に逆の習慣、つまりあぐらをかかせたり、あるいはヨガのポーズをとらせるようにすることである。これによって時間とともに後捻の方向へ頚部がモデリングされていく。

(A.I.Kapandji(2019) カパンジー機能解剖学 Ⅱ下肢 第1章股関節 股関節の長軸回旋運動(医歯薬出版株式会社)より引用)

 

また、前捻かどうかを確認するにはもう一つやり方があって、あぐらの姿勢。

あぐらは90°以上の屈曲・外転に外旋が加わった体勢です。

ヨガの大家は、両下腿の軸が並行で水平に重なり合うほど外旋を強いることができる。(いわゆる「睡蓮」のポーズ)

(A.I.Kapandji(2019) カパンジー機能解剖学 Ⅱ下肢 第1章股関節 股関節の長軸回旋運動(医歯薬出版株式会社)より引用)

上の2つの引用から推測するに、大腿骨が前捻しているひとはあぐらのポーズでは両ひざが床についていない可能性が高いのでは・・?ということではいかと思います。

で、わたしの場合はというと・・

両方NGな条件をクリアしてしまってます。。やはりここで外旋が制限されていたのかー。納得がいく。

 

そういえばポールダンスを教わった先生でバレエ歴の長い先生は、あぐらの体勢で床にひざがついていました。

わたしは10年前に比べればひざの高さは床に近づいてきているのですが、それでもだいぶ離れてますね。

でも、これを撮影するにあたって久々にぺたんこ座りしましたが、以前はラクに感じたはずなのに、ちょっときつかったです。

この座り方をかなり長い間していない&昨年からAkagon 先生に習っているダンスでバレエの基礎動作を行なっているという状況変化があるので、もしかしたらねじれが多少良くなっているのかも?!(と期待したい)

 

 

2-3.外旋角度に影響のある部位③ 深層外旋六筋 

関節のつぎは筋肉。

外旋に影響のある筋肉は、深層外旋筋群と呼ばれる六つの筋肉です。

その名の通り、骨盤と太ももをつなぐ部分に付いていて外からはわからないインナーの筋肉です。

見た目や触った感覚などで硬いか柔らかいかはもちろん判断がつかない筋肉ですが、わたしのように骨格的に不利な人でもこの筋肉をストレッチすることで、ある程度は改善されるようです

大腿骨のねじれは11〜12歳までに形成されるが(Brown and Micheli,1988 ; Sammaruco,1983)、この年齢を超えると、受動的なターンアウトの改善は、制限のある軟部組織(関節包、靭帯、筋)をストレッチすることにより実現する。(中略)最近の研究では、優れたバレエダンサーに大きな後捻は起こってないとしている(Bauman,Singson, and Hamilton,1994)。
また、受動的な股関節の外旋の測定では、クラスに参加した者に著しい増大が見られたという報告(Garrick and Requa,1994)があり、平均的なダンサーに見られる股関節の大きな外旋が、骨の変化ではなく、軟部組織に制約されることを示唆している。

クリッピンガー(2013)ダンスの解剖・運動学大事典 第4章 骨盤帯と股関節(西村書店)より引用

 

外旋筋群のストレッチはいくつかありますが、代表的なのは、壁の手前であお向けになってヨコに脚を広げていくストレッチ。一度は見たことあるひとも多いのではないでしょうか?

 

もうひとつ代表的なのがこちらのカエルのポーズ。

個人的にはカエルポーズストレッチのほうがよこ開脚に有効なイメージがあります。

というのも、今よりもう少し硬かったときは、カエルのポーズは結構キツさを感じていました。壁に脚を広げるほうは感覚的にも角度的にも以前と大きな変化を感じていないです。

 

 

3.他に考えられる要因はないか?

主に外旋の動きに関連するものを要因として上げましたが他には考えられないのかというと、もちろん、絶対ない!とは言い切れませんが、先ほど上げた大腿骨の前がわへのねじれが有力かなと思っています。

 

3-1.太ももの内側(内転筋群)やおしりの筋肉(臀筋群)はどうか?

よこ開脚をするときに太ももの内側の筋肉やお尻が硬いと開かないとよくいわれますし、解剖生理学的にもとくにお尻の臀筋群は外旋・外転の主動作を担う筋肉とされています。

わたしのお尻も体質的に筋肉がつきやすいのか、なかなか立派な筋肉でして、ストレッチの最初は硬いことが多いです。なので、床で体育座りした体勢から片方のお尻を床に押し付けてゴリゴリほぐしてからストレッチしています。

そして脚をよこに広げたときに感じるのは、お尻でロックされているというよりも、もっと奥のほうで「これ以上いかない」感があるのでお尻の硬さがネックではないと思っています。

 

また、内転筋はたしかにものすごく硬いとよこに開きづらいし、イメージ的にも「太ももの内側=内転筋」というのが定着していると思うのでここを原因に上げやすいと思いますが、よこ開脚の主動作筋群ではないし、170°を超えている角度の場合は該当しないのではないかな~と考えています。

 

 

3-2.靭帯が硬い可能性は?

では、筋肉以外の部分で残る靭帯や関節包はどうか?

いろいろ調べていますがいまのところ関節包と柔軟性については見つけられず・・。というか、ここに原因があったとしてもどうにもできないと思うのであまり深堀りはしていません。

靭帯については1-3でかんたんに触れたように、腰椎をしっかり前弯しておへそが床につくくらいまではできているので(=弛緩できている)ので、これも該当しないかなと考えています。

 

まとめ

ということで、わたしの「よこ開脚170°は超えているけど180°に届かない・・」の要因を検討した結果、

  • よこ開脚をまずは分解「屈曲+外転+外旋+腰椎前弯」
  • バレエダンサーと比較した結果、外旋に原因がありそう
  • 関節と筋肉に分解した結果、まずは関節に要因がありそう。とくに大腿骨のねじれが前捻になっている可能性はかなり高い!
  • 外旋で使う筋肉群や靭帯は、たぶんそこそこ柔らかくなっていると思われる

ということでした。

なお、まだ勉強中で今回触れられなかったけど、X線画像で明らかになった確実にO脚を招いているであろう、ひざから下の異様なアライメント。

あれは何かしらの影響があるかもしれません。随時、アップデートしていきます。

 

あと、ちなみになんですが・・大腿骨のねじれについてクリッピンガーのテキストではこのような一文がありました。

ある整形外科医は、クラッシックバレエを職業としたいならば、股関節の外旋は15歳までに最低60度なければならないという(Brown and Micheli,1988 ; Thomasen,1982)。

(著:クリッピンガー 監訳:森下はるみ(2013)「ダンスの解剖・運動学大事典」第4章骨盤帯と股関節(西村書店)より引用

ということで、もしバレエダンサーとしてがんばっていきたいと思っているひとは、くれぐれも両ひざを床につけてペタンと座ることは避けたほうがいいと思います。

 

■参考文献

  • クリッピンガー(2013)ダンスの解剖・運動学大事典(西村書店)
  • A.I.Kapandji(2019) カパンジー機能解剖学 Ⅱ下肢 Ⅲ脊柱・体幹・頭部(医歯薬出版株式会社)
  • 宮本省三ほか(2016)人間の運動学 ヒューマン・キネシオロジー(協同医書出版社)
  • 橘未都(2016)股関節外旋を測定する:バレエにおけるターンアウト肢位(月刊トレーニング・ジャーナル38)
  • 武内孝祐ほか(2017)静的ストレッチングが股関節内旋および股関節外旋可動域に及ぼす影響(神戸国際大学紀要/神戸国際大学学術研究会[編])
  • 佐藤文則ほか(2015)股関節外転筋力・外旋筋力と歩行の関係性(岐阜人工関節フォーラム誌)
  • 田城翼ほか(2018)大殿筋および股関節外旋筋群への静的ストレッチングはしゃがみこみ動作に影響を及ぼすか(理学療法科学)

 

こちらもぜひ参考にしてね

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