運動イメージ(イメトレ)をパフォーマンスアップに活かそう!実践方法の考察

この記事は、運動イメージについての簡単な解説と、運動イメージをふだんの練習に取り入れるための具体的な方法を考察しています。

運動イメージに興味のある方の参考となれば幸いです。

一般的には運動イメージという言葉よりも、”イメージトレーニング”という表現のほうが聞きなれているかもしれませんが、この記事では「運動イメージ」で統一していきます。

 

1.運動イメージとは?

運動イメージとは、字面のとおり、運動動作をあたまの中で想像することです。

より正確な定義をご紹介すると、こちらの定義がわかりやすいと思います。

 

運動イメージ(motor image)とは、身体を実際に動かさずに運動行動している姿を想像することである。さらに運動イメージは、あたかも自分自身が行っているような筋感覚のイメージ(kinesthetic motor imagery)と、他者が運動行動を行っているような視覚イメージ(visuo motor imagery)の2つに分けられる。

(宮本省三ほか(2016)人間の運動学 ヒューマン・キネシオロジー(協同医書出版社)より引用)

 

学術的には想像のやり方として、筋肉を動かしているような感覚を持つ想像と、自分の動きを外側から見ているような想像の仕方と2つの方法があるとされているようです。

 

 

2.運動イメージを取り入れる効果

 

運動イメージをすることで、実際に身体を動かさなくても脳からの指令で筋肉を動かす感覚をシミュレーションすることができます。

脳科学やスポーツ科学、トップアスリートを対象にした研究文献・書籍のなかでは主に「運動スキルの向上」と「ケガからの復帰を早める(リハビリの一環)」という2つの点が効果として挙げられています。

これに加えてわたし自身の経験からは、「本番前・練習時の体力温存」「ケガ予防」という効果もあるのではないかと考えています。

たとえば、瞬発力を何度も必要とするような動作のある競技では、本番前に何度も練習してしまうと体力を消耗しますし、複雑な動きを伴う動作では、事前にシミュレーションしておくことでケガの防止にも役立つと考えられます。

 

国際的なスポーツの大会、例えばフィギュアスケートのウォームアップエリアを観察していると、陸で回転ジャンプ練習をしている選手もいますが、演技全体の動きを想像しながら身体を動かしてイメージングしている様子の選手も多く見られます。

ほかにも、世界陸上の中継でも幅跳びや高跳びなどのエリアでは、頭の中で一連の動作をイメージしているんだろうな~と思われるような動きをしている選手も見られます。

 

 

3.運動イメージを取り入れやすい競技

運動イメージはどの競技でも取り入れられると思いますが、実践しやすい競技とそうでない競技に分かれるかと思います。

「一人で動作が完結する競技」は比較的やりやすく、相手がいるような球技系、コンタクトスポーツは少しむずかしさが伴うと思われます。

  • 一人で完結(採点型・記録型・標的型):陸上、自転車、水泳、ウェイトリフティング、クライミング、体操、フィギュアスケート、ダンス、ゴルフ、アーチェリーなど
  • 球技系・コンタクトスポーツ:サッカー、テニス、野球(バッティング)、ハンドボール、卓球、柔道、ボクシングなど

 

なお、4-2.の部分でかんたんにご紹介しますが、サッカーブラジル代表のネイマール選手の脳活動を研究した論文・テレビ番組によると、ネイマール選手の運動イメージはかなり広範囲の脳領域を賦活していることが明らかになったようです。

なので、球技系やコンタクトスポーツでも、運動イメージの実践を積み重ねることで効果的なものにできるものと思われます。

 

 

4-1.運動イメージを行う方法:視覚的イメージでまずは実践

運動イメージを行うにあたっては、まずは視覚的にイメージするのが良いと思います。

視覚的イメージも厳密には一人称的イメージと三人称的イメージに分かれるようですが、あまり細かいことを気にするとできなくなるので、まずはやりやすい方法で想像してみてください。

 

運動スキルを上げたい、あるいは、本番でしっかりキメたい動きの動作をイメージしたり、観察したり、自分の言葉で表現する練習です。

最初はむずかしい、というか「これで合っているのかな?」という感じになると思いますが、まずは観察して言葉に表現する(話す、書く)ことに慣れていきましょう。

 

以前、スポーツ科学の特集で取り上げられていた番組、フランスのトランポリン代表のマリーヌ・プリュール選手はこのようにコメントしています。

シミュレーションを始めた当初は動作をするとバランスを崩していました。何が良くて何がダメなのかさえわかりませんでした。

今は、自分の分析できるようになって、いろいろと感じ取ることはできます。

(NHK BS ”勝てる脳”の秘密~完璧なアスリートを目指して~BS世界のドキュメンタリー:2015年放送より引用)

マリーヌさんはケガからの復帰を早めるために運動イメージを取り入れていましたが、最初はうまくできなくても徐々に慣れていったようです。

 

なお、視覚的イメージで賦活される脳の領域は主に視覚連合野領域、上頭頂小葉です。(下図のピンク文字)

 

 

4-2.運動イメージを行う方法:筋感覚的イメージを徐々に取り入れる

視覚的なイメージに慣れてきたら、一緒に身体も動かせると効果的です。

さきほどのマリーヌさんも実践していました。

 

可能な場合は頭の中のイメージを身振りで再現してもらいます。イメージしてもらうようりも効果が上がるからです。

(NHK BS ”勝てる脳”の秘密~完璧なアスリートを目指して~BS世界のドキュメンタリー:2015年放送より引用、クレア・カルメル氏(フランス国立スポーツ体育研究所:認知神経科学)のコメント)

 

身体を動かせる/動かせない場合のどちらであっても筋感覚をイメージするポイントとして下記を参考にしてみてください。

  • 下半身:足裏から受ける床の感覚、脚を動かすときにどこの筋肉を意識するか、どのくらいひざを上げたり曲げたりするか、腰のひねりはあるか、まっすぐに保つかなど
  • 上半身:腕や肩の位置、動かすときは肩甲骨を意識するか、ひじの伸ばし方、指先はリラックスか力を入れるか、頭の向きや方向、視線の動かし方など

 

なお、筋感覚的イメージを取り入れると賦活する脳の領域は、補足運動野、前頭前野、大脳基底核、小脳、と広範囲に一気に広がります。(下図のピンク文字の部分)

 

 

 

さきほど前半で少し触れましたが、サッカーのブラジル代表のネイマール選手に対する研究では、ゴールを背にしたディフェンダーが徐々に近づいてくる映像を見てもらいながら、身体は動かさずに頭の中だけでディフェンダーをフェイントでかわしてシュートを決める運動イメージを実践してもらったところ、他の選手と比べて圧倒的に脳の活動量が広範囲にわたっていたそうです。

Aがネイマール選手で、Bが別の選手の脳の画像(上部側)

 

明らかに違いますね!

このシミュレーションは8回フェイントを想像してもらうという内容で、どんな技を想像していたかの問いかけに、次のように答えたようです。

 

「8回毎回違うフェイントができましたか」というこちらの質問に対して、ネイマール選手は「簡単だった。ディフェンダーが来ると目が覚めるよね。」と言いながら、ペダラーダ、エラシコ、カヘチーリャ、カネッタ、メイアルア、シャペウ、オリジナルコンビネーション技2つをボールを足元で動かしながらつぎつぎと披露見せた。一方で、JS選手は「やったよ、左にかわしてシュート、右にかわしてシュート、フェイントせずにそのままシュート、右にかわしてシュートは2回やった」などと報告し、明らかに内容の乏しいフェイントを言及するにとどまった。

(内藤栄一 計測と制御(第56巻第8号2017.8)「超一流サッカー選手の脳活動の特殊性(ミニ特集 アスリートの脳を理解する)」より引用)

 

圧倒的に想像している内容の具体性が違いますね。

球技系のむずかしさは、実際の試合と事前シミュレーションとでは異なるところにありますが、少しでも具体性を持つことで筋肉の感覚を磨いておくことはできるかもしれません。

 

 

5.運動イメージが効果的に働かないケース

最後に運動イメージが効果的に働かないケースをご紹介します。

  1. 実践したことのない複雑な動き
  2. 筋肥大を目的とした運動イメージ

1.は、実際に身体を動かしたことがないと筋感覚の記憶ができていない状態となるので、運動イメージの効果としてはむずかしいようです。

また、2.の筋肉を大きくしたい場合も、たとえば筋トレを頭の中で想像したとしても実際に筋肉を大きくさせることはできません。運動イメージは、あくまでも脳からの指令を受けて筋肉の感覚をシミュレーションする、ということなので、筋肉を大きくしたい場合は筋トレをがんばるしかないですね。

 

最初は慣れないかもしれませんが運動イメージも、通常の練習と同じで積み重ねが大事だと思います。ぜひ、ふだんの練習に積極的に取り入れて活用してみてください。

 

【参考文献・番組】

  • 水口暢章・彼末一之 計測と制御(第56巻第8号2017.8)「運動イメージと運動パフォーマンス(ミニ特集 アスリートの脳を理解する)」
  • 野崎大地 計測と制御(第56巻第8号2017.8)「脳状態に依存して形成される運動記憶(ミニ特集 アスリートの脳を理解する)」
  • 内藤栄一 計測と制御(第56巻第8号2017.8)「超一流サッカー選手の脳活動の特殊性(ミニ特集 アスリートの脳を理解する)」
  • 宮本省三ほか(2016)人間の運動学 ヒューマン・キネシオロジー(協同医書出版社)
  • NHK BS ”勝てる脳”の秘密~完璧なアスリートを目指して~BS世界のドキュメンタリー http://www6.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/?pid=160722

 

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