バレエやフィギュアスケートなど、審美系競技に取り組む子たちは、体型管理について気にしている人も多いと思います。
本人がそうでなくても、指導を受けている先生から体型のことを言われた・・という話も耳にすることもあります。
女子児童はとくに、第二次性徴期に入るあたりから体型が変わってくるので、比較的早い段階から食事に気をつけている保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
最近では、「極端な食事制限や生理が止まるほどの練習量はよくない」と、女性アスリートによる「自分の身体を大切にしてほしい」というメッセージの発信を目にする機会も以前よりかなり増えました。
とても、いい流れです。
ただ一方で、身体を大切にしなければならないということは理解していても、審美系競技の特性上、体型について”全く気にしないわけにはいかない”というジレンマも同時に抱えているというのが実際だと思います。
審美系競技者の体型管理はとてもセンシティブでむずかしい問題ですが、健康的に競技に取り組むにはどうしたらよいか?どのタイミングで栄養を見直したらよいか?というのをわたしなりに考えてまとめました。
前編と後編に分かれていて、前編は第二次性徴期が始まる前の年齢と(およそ10歳以前)月経が始まった年齢(およそ11歳以降)を対象にした内容です。
なお、記事の中では特定の栄養素についていくつか言及していますが、これらはエビデンスに基づく一般的な栄養情報を基にしています。ただし、身体に良いとされている食物でも極端に偏った摂取はダメです。
アレルギーがある場合には医師に必ず相談して摂取可能か確認してください。
参考にした書籍や研究論文は記事の最後にリンクとともに掲載していますので、そちらもぜひ参考に。
第二次性徴期が始まる前段階で意識しておくこと
成長期の発育発達について、女子はPHV年齢(身長発育速度ピーク年齢)が11歳前後、このあたりから成長ホルモンが後退して女性ホルモンの分泌が活発になると言われています。(≒第二次性徴期開始)
身体が変化する前の段階で食事や栄養面で意識しておいた方が良いことは、きちんと毎食しっかり食べられるようにしておくことです。
しかし、内臓が弱かったり、アレルギーがあるなどの個人差があると思いますので、1回の食事量や栄養バランスは子ども・保護者にとって無理のない範囲で良いと思います。
できれば毎食タンパク質を取り入れたり(*1)、鉄分が不足しないように(*2)準備できればなお良し、もっと細かくこだわって食事の準備ができる方は、栄養関連の書籍を参考にバランスの良い食生活を心がけられると良いと思います。(アレルギーがある場合には医師に必ず相談して摂取可能か確認してください)
(*1)卵・肉・魚・大豆製品など、1食あたり手のひら1杯分の量が良いとされている
(*2)いわし・あさり・しじみ・牛レバー・豚レバー・ほうれん草・黒豆など。ただし、乳製品やお茶と一緒に摂取すると吸収効率が下がるようです
第二次性徴期が来る前の段階であれば、特別何かをしたほうが良いというのはありませんが、甘いものやスナック菓子、カップ麺やジャンクフードを食べる習慣がある場合には、少しずつ食べる頻度・量を減らしていくのが良いと思います。
習慣はいきなり変えるのはむずかしいですし、糖は依存性が高いとされているので早い段階で食べる習慣を断てるに越したことはないです。
食品の原材料等に「果糖ぶどう糖液糖」(*3)という記載がある食品はとくに注意が必要です。
この果糖は体内では過剰な糖として脂肪に変換され、脂肪肝の原因になるという報告もあるようです。
甘いおやつを食べる量と頻度を減らす代わりに、ギリシャヨーグルトやアーモンドフィッシュ、ナッツ類などに換えていくのがおすすめです。
(*3)通称「トクホ」で知られる特定保健用食品にも入っているので(ex.ヤクルトが販売しているヨーグルトのソフールなど)、完全に避けるのはむずかしい、ほどほどに。
初潮を迎えたタイミングで気にしておいたほうがよいこと
第二次性徴期に入ると女子では骨盤や骨格筋の発達、皮下脂肪の発達が目立つとされています。
わたしがこれまで見てきた児童も、生理が始まっている子の下半身は初潮前の子よりも目立って発達しているなという印象があります。
このタイミングで気にしておいたほうが良いのは、適切な食生活のほかに、睡眠時間の確保や皮膚の乾燥を防ぐこと、体組成・サイズの変化を認識しておくことが挙げられます。
睡眠時間の確保
子どもの睡眠時間について、学童期(6~12歳)は9~12時間、思春期(13~18歳)は8~10時間を目安にという指標があります。
バレエやフィギュアスケートに取り組む子たちは、小学校高学年あたりから競技レベルが上がってきて練習時間が増えてきたり、なかには中学受験を目指して勉強時間も増えるという子もいると思います。
そうすると、必然的に睡眠時間を削ってでも練習を・・と考えてしまうかもしれませんが、睡眠時間を削るのはおすすめできません。
しっかり睡眠をとることで成長ホルモンが分泌され、心身ともにしっかりとした成長を支えます。
また、成長ホルモンがあまり分泌されないと代謝に影響があるので太りやすいという研究結果もあるようです。(わたしも睡眠不足が続いていたときは体重が増加した経験があります)
ケガすることなく良いパフォーマンスを出すための身体づくりに、睡眠時間の確保は重要と考えます。
なお、オーバートレーニング症候群の主要症状の一つに睡眠障害があります。
練習量が増えてきて睡眠時間を確保していてもしっかり眠れない日が続いている・・という場合には、オーバートレーニングの可能性を考えて、積極的な休養や、必要に応じてスポーツ内科などの受診をおすすめします。
皮膚の乾燥を防ぐ
体型管理と皮膚になんの関係が・・?と思われるかもしれませんが、皮膚が乾燥している状態は皮膚のバリアが傷ついているのでアレルゲンなどの病原体が体内に入りやすい状態といわれています。
また、皮膚は腸との相関もあるようで、腸の状態が悪いと皮膚に反映され、皮膚が悪くなると腸の状態が悪化するそうです。
腸は食べ物から摂取した栄養素を消化吸収する重要な器官なので、皮膚の状態は健康な身体づくりを考えるうえで一つの指標になると思います。
さらに、皮膚の乾燥はビタミンDの不足・欠乏と関連があることが明らかにされているので、肌がカサカサしている状態が続くようであればビタミンD(*4)を積極的に摂取することをおすすめします。
(*4)ビタミンDの役割はカルシウムの吸収を促進する遺伝子の発現を調節する。カルシウムは骨密度、筋収縮、神経機能、ホルモン分泌に直接関与しているため、ビタミンDは身体パフォーマンスの向上の重要な役割を持つ。
ビタミンDを含む食物は、しらす、じゃこ、サケ、キノコなど。
体重のほか体組成、サイズに目を向ける
初潮を迎えたあたりから徐々に女性らしい身体つきになっていくので、当然体重は増えてきます。
トップアスリートのなかには体型が変化してきたときに体重を毎日測定して太らないように気を付けていたという話も聞きますが、体重だけでなく体組成やサイズの変化も同時に見ておく方が良いです。
体組成が測定できる体重計も最近では一般的になりましたので、体組成が測れる場合で筋肉量が増えてきている時には体重の数値はあまり気にしなくてもよいのではと思います。(体重を気にして極端なダイエットをさせないためにも)
また、ボディサイズを定期的に測ってその変化を確認しておくのも、その後の体型管理に役立つと思います。
測定する場所は、手首・肩幅・ウエスト・腰回り・太もも・ひざ回り・ふくらはぎ・足首など。
肩幅・ウエスト・腰回り・太ももは骨格がしっかりしてくるので必然的に大きくなります。
一方で、手首や足首、ひざ回り・ふくらはぎなどは通常、大きな筋肉や皮下脂肪がたくさんつく場所ではなく、この部位が変化してきたら全体的に皮下脂肪がついてきている可能性があるので、食生活の見直しを検討していくサインではないかなと思います。
最近ではアプリで気軽に撮影して計測できるものもありますのでぜひ活用してみてください。
▼BodygramアプリBodygramアプリによる計測(12歳、測定時身長149cm)
前編はここまでです。
後編は体型が変化して身体を絞るためにダイエットを始める時に気をつけることについて書いています。
まとめ(前編)
- 第二次性徴期前の段階では、しっかりした食事を取る習慣をつける。
- 甘いものやジャンクフードは徐々に量と頻度を減らして食べる習慣をできる限りなくす。
- 月経が始まったら、睡眠不足や皮膚の状態にも気をつける。
- 体組成や各サイズの計測を定期的に行って変化の傾向をつかむ。
★パーソナルトレーニングでは体型管理も含めたトレーニングの実施も可能です。体験申し込み時にその旨、ご記入ください。
【参考文献・参考サイト】
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- 2023 伊藤明子『子どもの食事50の基本ー脳と体に「最高の食べ方」「最悪の食べ方」』ダイヤモンド社
- 2019 公益財団法人日本スポーツ協会『リファレンスブック』日本印刷株式会社
- 2018 G.Gregory Haff , N.Travis Triplett編 篠田邦彦・総監修(2018)『NSCA決定版 第4版 ストレングストレーニング&コンディショニング』ブックハウスHD
- 2015 中谷敏昭編『はじめて学ぶ健康・スポーツ科学シリーズ5 体力学』化学同人
- 2022 青山敏明「脂質の基礎と栄養ー脂質の特性から中鎖脂肪酸の最新研究までー」New Diet Therapy 日本臨床栄養協会誌
- 2023 Nicole Schroeder 「身体パフォーマンスを強化するためのエビデンスに基づく栄養戦略」Strength&Conditioning Journal2023 1-2月号NSCA JAPAN
- 一般社団法人 女性アスリート健康支援委員会 http://f-athletes.jp/index.html
- National Institutes of Health https://www.nih.gov/
- Centers for Didease Control and Prevention https://www.cdc.gov/
【当スタジオ・インストラクターChiakiについて】