フィギュアスケートジャンプのトレーニングでシルク(布)ハーネスを導入しています。
回転不足なく着氷するためには、回転の初速度、ジャンプの高さ、空中でブレない軸などさまざまな要因と対策が考えられますが、このハーネストレーニングでは回転速度と空中姿勢を分析することで、それぞれ何が足りないかを考えてフィジカルトレーニングにつなげています。
なお、氷上と陸とでは踏み切り時の摩擦が大きく異なり、そもそも滑走がないので完全に同じ状態とはなりません。
そして、この分析もさまざまな視点からの考察がまだ必要ですが、受講者のパフォーマンスは徐々に向上してきているので、内容を一部紹介させていただきます。
なお、撮影に使用したカメラはiPhone12ProMax、スローモーション撮影でfpsを240に設定、
動作分析に使用しているソフトはダート・フィッシュです。
【参考:ダートフィッシュのYouTubeチャンネル】
回転スピードはどれくらいなのか?
7級・6級・3級の受講者がそれぞれ練習しているジャンプの回転数と1回転あたりのタイムを表にしました。(単位:秒)
回転の開始は踏み切り足が床から離れる直前、終了は片足(通常:右足)が着地した瞬間で計測しています。
Aさん 7級 (16歳) |
Bさん 6級 (12歳) |
Cさん 3級 (9歳) |
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4回転 | 3回転半 | 3回転 | 2回転 | |
1回転目 | 0.208 | 0.216 | 0.175 | 0.275 |
2回転目 | 0.233 | 0.233 | 0.250 | 0.333 |
3回転目 | 0.233 | 0.258 | 0.266 | – |
4回転目 | 0.216 | 0.116 (1/2回転) |
– | – |
トータル | 0.883 | 0.825 | 0.691 | 0.608 |
カメラは固定設置、3人とも同じ場所・アングルで撮影しています。
ハーネスは跳び上がるタイミングに合わせてワイヤーを引いてジャンプをサポートする仕様ですが、基本的に跳んでいる本人のジャンプ力(高さ)以上に引き上げないように、また、滞空時間もなるべく本人の力量以上にキープしないように調整しています。
ですが、Cさんは実際のジャンプ高より5~8㎝程度引き上げが大きかったかなという感じはあります。体重が軽い児童は、わたしが引き上げる強さの微調整がもう少し必要で訓練中です。
参考までに掲載許可をいただいているCさんの動画を紹介します。
それぞれの課題について考察
さきほどの表で、各受講者ごとにポイントとなりそうな部分をマーカーで塗っています。
★Aさん:初速度を上げつつ、回転中も軸ブレしないように身体を締め続けて、トータル秒数を0.8秒を切る
氷の上では3回転半は着氷できている確率が高いので、4回転のほうで解説していきます。
基本的にどのジャンプも滞空時間を伸ばすためにはジャンプの高さと幅が必要ですが、そうは言っても上げられる範囲には限度があります。
ジャンプの回転スピードと高さはトレードオフの関係なので、両方を同時に引き上げることはむずかしく(*)、Aさんの場合は3回転半は着氷できていることを考えると、最初の回転スピード(0.208秒)をあと少し速く回れると氷の上でもきっちり4回転で降りられるのでは、と考えています。
なお、2回転目と3回転目の速度が同じで(0.233秒)、とてもすばらしい出来です。
これはスロー再生で確認しても、2回転目から3回転目にかけての空中姿勢はほとんど下降せずに回転できています。(動画掲載ができないため伝わりづらかったらすみません)
つまり、回転中の体軸をしっかりキープする体幹の強さはすでにあるので、引き続き体幹を強化しつつ、最初の回転スピードを上げてトータル0.8秒以下を切れるようにフィジカルを鍛えています。
(氷上での4回転練習の離氷~着氷までを計測したところおよそ0.8秒くらいだったため)
◎強化ポイント:瞬発力・反応スピード・体幹・脚力
(*)回転スピードとジャンプ高については下記記事もぜひ参考にしてみてください
★Bさん:回転中の身体の締めを強化しつつ、徐々にジャンプの高さを上げる
Bさんの場合は最初の回転は良さそうです。Aさんより数値上は速い結果ですが、ジャンプの高さはAさんより低いので、高さを意識して跳ぶと最初の回転速度は落ちます。
Bさんの課題は、2回転目の回転速度が落ちていること、スロー再生で空中姿勢を確認すると1回転半あたりから身体が下降し始めています。
ここを改善するためには、身体全体を意識してジャンプに入る・回転中も身体を締め続けられるように体幹を強化することが必要です。
それにプラスしてジャンプの高さを上げられるような(SSC:ストレッチショートニングサイクル)トレーニングをしています。
◎強化ポイント:体幹(とくに腹横筋、背筋)・肩・脚(内転筋群・臀筋群)・ジャンプ高
★Cさん:回転中の身体の締めを強化する(ただし、多様な動きで強化)
Cさんの課題はBさん同様に2回転目の速度が大きく落ちてしまっているのと、最初の回転ももう少し速いほうが良いので、改善するためには体幹強化が必要ではありますが、Cさんはまだ低学年&これから身長も伸びていく段階です。
そのため、負荷の高い筋トレを繰り返すようなトレーニングよりも、多様な動きのなかで身体を使う感覚を持てるようにトレーニングしています。
具体的には、運動の基本である「走・投・跳」を鍛えるトレーニングや反応スピードを上げるトレーニングなど、まんべんなく身体を動かして強化しています。
◎強化ポイント:多様な動きのなかで体幹・脚力を鍛える、身体を締める感覚を磨く
ジャンプのクオリティを上げる陸トレ練習の順番
フィギュアスケートのジャンプはとてもむずかしいスキルなので、これまでにさまざまな視点で考察・試行錯誤をしてきました。
その内容は、冒頭で紹介した記事や先日公開した取得級別の陸トレ記事でご確認いただけたらと思います。↓↓↓
また、上達するためにはスケートを始めた年齢、骨格、筋力、動作スキルの得手不得手など、個人差が大きく影響しますが、フィジカル強化の順番としては、次のような順に鍛えていくのがよいのではと感じています。
- 初速度(回転スピード、とにかく速く回るための身体の使い方)
- ジャンプの高さ
- 軸のキープ(体幹強化)
- ジャンプの幅
選手はつねにケガのリスクと隣合わせで練習をするのも大変だなという印象ですが、ケガの要因の多くはジャンプの着氷失敗やオーバーユース(同じ練習の繰り返しによる使いすぎ)にあるように感じています。
そして、着氷の失敗は回転不足のときに起こりやすいので、氷上の練習での質を少しでも上げられるように、オフアイスではきっちり回転できる感覚、身体を締める感覚などを無意識でも発揮できるようにトレーニングをしています。
試行錯誤な部分もまだ多いですが、引き続き、アップデートしていきます。
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