消費カロリーも摂取カロリーも“推定値”:アスリートが数字に振り回されないために

スマートウォッチの普及でトレーニング中の心拍数や消費カロリーを手軽に確認できるようになりました。私もApple watchを5~6年着用しているのでそうした確認が習慣であり、パーソナルトレーニングに来ている学生の中にもスマートウォッチをつけている選手もいます。

利用している人は分かると思いますが、スマートウォッチで算出される活動エネルギー消費量(運動時の消費エネルギー)は意外と低いなと思うことが多いです。

「50分ハードに動いても200kcalいかない」「これだけハードに動いても団子1本分!?」と、びっくりすることもあると思います。

 

他方、摂取に関する数字、食事に関しては、SNSなどで強豪校の寮の食事やトップアスリートの食事管理として、ご飯を量り、栄養量を細かく計算している様子もよく目にします。

1食あたりの摂取カロリーを計算する管理には意味があり、特に主食である炭水化物の量(g)を把握することは、練習量に応じたエネルギー補給を考える際の指標になります。

 

ただし、ここで注意したいのは消費カロリーも摂取カロリーも、その数字は完全に正確なものではないという点です。

(エネルギー計算や食事記録は、栄養管理において重要な指標です。本記事はそれらを否定するものではなく、推定値としての性質を理解して、より安全に使うための整理としてとらえていただけたらと思います)

 

1. エネルギー計算は、栄養管理の重要な指標である

エネルギー必要量の計算、食事記録、主食量の調整、補食の設計は、アスリートの栄養管理においてとても重要な指標です。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」においても、推定エネルギー必要量は基礎代謝量と身体活動レベルなどをもとに考えられています。

 

2. 摂取カロリーには誤差がある

ただし、わりと精緻に記録・計算していても食品の量、調理油、調味料、外食・惣菜の個体差、記録漏れ、目分量などで一定の誤差が出るのは避けられません。

厚生労働省の食事摂取基準は、食事調査には過小申告・過大申告や日間変動などが関わることを前提にしています。

 

3. 消費カロリーにも誤差がある

一方、消費カロリーの計算も同様に、一定の誤差は避けられません。

通常、一日の総エネルギー消費量は、学術的には「基礎代謝量、食事誘発性熱産生(DIT)、活動時代謝量」の3つの要素に分けられています。

★基礎代謝量

基礎代謝量の数値算定については様々な推定式がありますが、どの方法についても絶対的なものはなく、一定の誤差は発生します。

試しに、基礎代謝量の推定式について6つほどピックアップして自分の身体情報で計算してみたところ、低い数値と高い数値とで419kcalほど幅が出ました。

★食事誘発性熱産生(DIT)

食事誘発性熱産生は通常、総エネルギー摂取量の10%程度といわれていますが、栄養素のそれぞれの割合によって一定の誤差は避けられないようです。

アスリートにおいてたんぱく質からのエネルギー摂取量が大きくなっている場合には、DITは総エネルギー摂取量の10%より高い可能性が強く、ここにDITの推定誤差が生じる可能性がある。

(2020市村出版「エッセンシャル・スポーツ栄養学」Ⅱ部スポーツ栄養マネジメントの理論とアセスメント6⃣エネルギー消費量の算定より引用)

★活動時代謝量

活動時代謝量についても、METsやPALなど推定式を用いて算定する方法や、心拍数や加速度から計算する方法もありますが、いずれの方法においても一長一短あるため、適用できる動作や競技が限られているようです。

 

4.スマートウォッチで表示されるエネルギー消費量

では、スマートウォッチで表示されるエネルギー消費量は何を表しているのか?

通常、手首に装着するタイプのデバイスは、心拍数、加速度、歩数、GPS、年齢・性別・体重などの個人情報、運動種目などをもとに消費カロリーを推定しています。

ただし、どのメーカーもアルゴリズムは非公開のため、先ほど紹介した3つのカテゴリー「基礎代謝量、食事誘発性熱産生(DIT)、活動時代謝量」をどのように網羅しているのかは不明です。

 

また、活動時代謝量に関して市販ウェアラブルのレビューでは、歩数や心拍数に比べてエネルギー消費量の精度は低く、エネルギー消費量について正確といえるデバイスは確認されなかったと報告されています。

Apple Watchを着用している私の体感としても、ランニングのように心拍数が上がり、移動距離や歩数が明確な運動では、デバイス上の消費カロリーも高く出やすい。

一方で、筋力トレーニング、ジャンプ練習、アイソメトリック保持、技術練習などでは、局所的には大きな負荷がかかっていても、心拍数や移動距離には表れにくいと感じています。

ちなみに基礎代謝量に該当するものは、Apple Watchでは「安静時基礎代謝」として表示されていて、だいたい1200kcal前後で表示されます。

これも、感覚的には低く感じています。(食事摂取のカロリー、体重増減がないことを考えると実際はもう少し高いと思われる)

 

5. METsも便利だが、万能ではない

活動時代謝量の説明で、METsに簡単に触れましたが、消費カロリーの算定にはMETsが使われていることが多く、書籍などでもよく目にします。

METsは活動の種類ごとにエネルギー消費を見積もるための便利な指標で、1METは安静座位に近いエネルギーコストとして定義され、活動ごとの強度を比較するために使われます。

 

スタジオで使用している「アス食もんしんナビ」というアスリート栄養評価システムでもMETsを基に活動エネルギーを算出しています。

ただし、METsは平均的な活動強度を示すものであり、体組成、体力、努力度、機械的効率、環境条件などの個人差を十分には反映しづらい。

また、METsは“全身としてどれくらいエネルギーを使ったか”を見積もる指標には便利ですが、競技特有の動きは反映されていない可能性を留意する必要があります。

 

6. 数字に含まれにくいもの

消費エネルギーの数値も栄養管理に基づく摂取カロリーの数値も有用ではあるけれど、一定の誤差は避けられず、絶対ではない。

スマートウォッチやMETsなどによって身近に分かる数値も、当然に一定の限界がある。

かんたんにまとめるとこのような感じです。

数字の内容 見ている要素・指標 考慮されにくい要素
スマートウォッチの消費カロリー 心拍数、動き、距離、個人情報などからの推定 技術的な負荷、静的保持、局所筋負荷、熟練度、回復コスト、食事誘発性熱産生
METsによる消費カロリー 活動種類ごとの平均的エネルギー消費 個人差、フォーム効率、休憩の入れ方、競技特異的負荷
食事記録の摂取カロリー 食材量・食品成分表・入力内容からの推定 調理油、外食・自炊差、記録漏れ、日間変動、実際の吸収差
体組成計の数値 体重・電気抵抗などからの推定 水分量、測定時刻、月経周期、前日の食事・運動

7. 数値の読み取りで避けるべき誤用

推定値に基づく判断は、有効に活かそうと思うとむずかしい部分もありますが、避けてほしい使い方があります。

それは、1日ベースの消費カロリーだけを見てその日の食事量を制限すること。

摂取カロリーも消費カロリーも推定値である以上、一日単位で判断してしまうと、身体機能・回復・成長に必要なエネルギーまで不足する可能性があります。

健康的に栄養管理を実践するならば、少なくとも1~2週間単位で消費カロリーを算定して、摂取カロリーを調整する。体重(できれば体組成がわかるもの)計測も毎日実施して増減レベルがどのような感じかを観察する。

細かすぎず、ざっくりしすぎず、の調整がむずかしいですが、数値に一喜一憂しない習慣づくりがアスリートの身体づくりには必要です。

 

8. 数字は身体を理解するための補助線

「測ること」は大切です。
ご飯を量ること、食事を記録すること、スマートウォッチで心拍や活動量を見ることは、選手が自分の身体を知るための手がかりになります。

ただし、数字は身体そのものではありません。
消費カロリーも摂取カロリーも推定値であり、そこには誤差と個人差があります。

アスリートに必要なのは、数字を小さくすることではなく、数字を手がかりにして、自分の身体が動き、回復し、次の練習でまた出力できる状態を作ることです。

それを実践するためには、自分の身体と向き合う感覚も必要です。

練習に入る前の身体の状態はどうか、終わったあとの疲れ具合はどうか、しっかり睡眠と食事を取ったら翌日どの程度回復しているか、など、日々の感覚を意識するように心がけて取り組むことが大切と思います。

 

【参考文献・サイト】

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