(2018年9月初回公開記事、2022年10月一部追記)
住んでいるマンションの仲介不動産会社から賃貸契約の更新について連絡がありました。
「いつもより早いな?」と思いつつ封を開けてびっくり。かなり値上げされている!
これは・・と思い、交渉したところ値上げを阻止することができました。
かなり侃々諤々、やり合うのか。。と想定していたけどそこまでに至らず。
ホッとしたもののせっかくなので自分がやろうとしていたことを書きます。
険悪な雰囲気をなるべく避けて、お互いが納得できる形にするための方法です。これから更新を迎える方の参考になれば幸いです。
(なお、住宅用を前提とした話です、事業用物件は事情が違うこともあるのでご注意下さい)
感情的な交渉は避ける(NG編)
家賃が上がる、というのは心理的にかなりショックが大きいというか金額によっては怒りの感情が湧きやすいと思います。
わたしの場合、2年前の更新のときに少し金額が上がった経緯があります。今回はそのときよりさらに大幅な値上げされた金額が書かれていたので相当イラッときていました。「なぜこんなに上げてくるんだ!!」と心の中で叫ぶ。
しかし、その怒りを家主や仲介の会社にそのままぶつけては絶対にダメです。
あくまで、話し合い・相談を申し入れる空気にしていかないと、良い形に収まりません。
感情をぶつけられたら感情で応えてしまうのが人間なので、すぐに先方に電話するのはまずNG。
また、ネットを検索すると「拒否通知を内容証明で送る」というようなことを書いているサイトも見られますが、こちらもいきなりそういうのは止めたほうがいいです。
内容証明で拒否、という形式が、もう、お互いが歩み寄って話し合うスタンスからほど遠くなってしまいます。
いやな気持は一旦、横においておき、ぜひ下記のような手順を踏んでみてください!
交渉準備① 契約書を確認
まず始めに賃貸借契約を結んだ契約書を探して下さい。
契約書には必ず「賃料」という項目のところに、次のような文面があると思います。
甲及び乙は、次の各号に該当する場合には協議の上、賃料を改定することができる。
これは、貸主(甲:賃貸人)と借りているあなた(乙:賃借人)が、双方合意の上でないと賃料は改定できないということです。
賃貸人および賃借人の双方が持つ「話し合う」という権利です。
よほどおかしな契約書でない限りは必ずこのような一文があるはずなので、まずはそれを探して、条項を控えて下さい。
条項とは、文面の前に書いてある「第○条、○項」という数字です。
交渉準備② 貸主の主張の根拠を確認する
契約書に書かれている賃借人の権利、「協議」をするにあたって、まずは相手の考え(主張)をしっかり確認する必要があります。
ここはぜひ冷静にそして少し時間をかけて取り組んだほうがいいです。
まずは貸主がなぜ「値上げ」をしたいのか、その具体的な理由を求めます。
経済環境や税制などが変われば賃貸人である貸主の負担が増えることもあり、やむを得ずに値上げしている場合も考えられます。
最初のステップは、貸主側が主張する金額の具体的な理由や背景を確認して相談を申し入れます。
確認する際のポイント(1)電話(メール)→ 書面送付(添付)→ 書面回答の手順
話しをする相手が、不動産の直接の所有者なのか管理を委託された仲介の管理会社なのかによって、ふだんの連絡方法がそれぞれあると思います。
もしメールでやりとりするのが普通なのであればメールでもいいし、そうでないなら電話でも構わないと思います。
わたしは直接話すことに抵抗がないタイプなので、まずは電話で下記のように伝えました。
【電話で話すときの文例】
お世話になっております。〇〇〇〇の△△△号室に住む✕✕と申します。
この度、家賃更新のお知らせを受け取り確認してお電話を差し上げました。いただいた内容については賃貸契約書○条○項に記載されている通り、協議したいので相談の申し入れをさせて下さい。
必要であれば書面を送付しますが、まずはこちらが確認したい点を先にお話してよろしいですか?
このような感じで、口頭で話すときにもはっきりと、契約書の○条○項に基づいて申し入れをしています、ということを伝えましょう。
冒頭にこのような断りをいれておくと、先方の認識も「まずは聞く」ということになるので会話の途中で話を遮られたり反論されたりということを防げる効果があります。
そして相手によっては、そのまま電話で完結する場合もあるし「書面を送ってほしい」と言われる可能性もあります。
電話でそのまま話をするような場合に備えて、ポイント(2)の書類の文面例を話し言葉で伝えられるようにイメージしておくのが良いと思います。
あと、声のトーンは決してとんがらずに冷静な、できれば少々明るいほうがいいです。感情的なのは絶対ダメ。
へりくだる必要もないのでお互いが対等に話している、ということを意識できるようになるべく肩の力を抜いて話したほうがいいです。
【メールで伝えるときの文例】
■■■不動産 〇〇様
お世話になっております。〇〇〇〇の△△△号室の✕✕です。
先日、家賃更新の書類を拝受致しました。
金額については、賃貸契約書○条○項に基づき、ぜひ話し合いたいと考えております。
つきましては、添付の書類をご確認いただき、書面にてご回答いただきますようお願い申し上げます。
〇〇〇〇の△△△号室
✕✕✕
メールの文面で詳細なことをあぁだこうだ書くと、相手もそれだけでストレスになるので文面はあっさりさせて書類を添付しましょう。
では、次は肝心の書面で何をどう書くかを解説します。
確認する際のポイント(2)根拠は事実と解釈(判断)に分けて考える
確認を求めるにあたって、「貸主側が主張する金額の具体的な理由や背景」が客観的にみて明確に分からないと意味がありません。
なので、ただ「理由を知りたい」と書いただけでは「周辺住居の相場や経済環境を加味した結果」と無味乾燥な回答が帰ってくるのが関の山です。
ポイントは、根拠とは、事実と解釈(判断)に分けて考える。
事実は時点が過去または現在で実際に起きたこと、起きていること。
解釈(判断)とはその事実をどう考えたか、どのように捉え判断したか、ということ。
そして、事実は「経済環境」と「住環境」に分けて考えるとわかりやすいです。
★「経済環境」の一例★
- 近隣住宅(マンション、アパートなど)の相場
- 路線価
- 地価の推移
- 景気の動向を示す消費物価指数
- 新聞社が調査した賃金動向調査・ボーナス支給額の推移
★「住環境」の一例★
- 日当たりが売りだったのに別のマンションが建ち、日が当たらなくなった/日当たりを遮るものが撤去されて良くなった
- ゴミ出しのマナーが悪くなった/改善された
- 騒音のする部屋がある/騒音が改善された
- 共用スペースが劣化してきて危険な状態が続いている/古くなった共用スペースの補修工事が行われた
これらはあくまでも一例なので、考えればもっと他にもいろいろな事実があると思います。
こういった事実を基に、どう解釈(判断)しているのか、を先方に確認するようにしましょう。
住環境については入居当初よりも良くなっているのであれば、家賃を上げられる要因になると思います。
なお、わたしが実際に言われたことで
「他の部屋も値上げしている」「空いている部屋は****円で募集している」
ということがありました。
最初はなぜそんなことを言うのかわからなかったのですが、どうやら暗に「みんなも要求されている、あなたはマシなほう」と伝えたかったのだと思います。
しかし、これらは事実ではなく解釈です。ある事実を基に他の部屋も値上げすることにしたという判断の例に過ぎません。
わたしの部屋の家賃を上げることを考えるうえでは無関係。うろたえることないですよ!
(むしろ、家主さんはこういう言い方をするとかえってヤブヘビになると思うよ!)
上記のポイントを踏まえて、先方に確認を依頼する書類の文面例です。
【書類の文面例】あくまでもご参考に!
A4文書のイメージ
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〇〇〇〇 △△△号室の家賃に関する確認のご依頼
「希望金額 ******円」について、その根拠となる理由を、下記を踏まえてお聞かせください。
なお、回答に際しては書面にて、社判等が押印されたものをご返送いただきますようお願い申し上げます。
ご回答期限の目安:〇〇月○○日
【経済的要因】
- どのようなデータを参考にして値上げの判断をされたのか、たとえば、路線価、地価推移、J-REITの推移など判断にあたって参考にしたデータを教えてください
- 使用したデータは開示年度も明記願います
- 上記のデータを基に、どのような判断をされたのかなるべく具体的に教えてください
【住環境要因】
・入居当初と比較すると、ゴミ出しや駐輪場の使用方法など以前よりマナーが悪くなっているように思います。
家賃を値上げするにあたって、このような環境についてはどのようにお考えでしょうか。もし、改善策などをお考えでしたらお聞かせください。
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経済的要因や住環境要因の部分は、それぞれのケースに応じて書き換えてみてください。
ポイントは
- 要望はシンプルに伝える
- 回答方法と期限を明記する
- 会社としての回答であることを求めるため社判の押印を依頼(社員個人の回答を避ける)*
- 考慮してほしい部分はあいまいにせず具体的に記載する
です。
*3に関しては、時代とともに印鑑の文化も変わってきていると思います。
ポイントは、会社としての回答であることが担保されていればよいので、メールであれば担当者の上司の方をCCに入れていただくなど、依頼してみてください。
交渉準備③ 自分でも情報収集する
上記のことを貸主に依頼すると同時に自分自身も同じように情報収集することが重要です。
下記のようなサイトの情報を参考に、ご自身で自分の家の家賃が値上がることはそれなりに妥当なのかそれとも据え置きが妥当なのか考えておきましょう。
心理的には「今より一円足りとも多く払うのはイヤだ!」と思いますが、経済環境が上向いて住環境が良くなっている場合には、ただ「嫌だ」とゴネたところで単なる身勝手な人としか見られません。
ここはグッとガマンして、冷静に家賃を取り巻く環境を自分でも勉強して交渉に臨むことをおすすめします。
一番シンプルなのは、お住まいの近隣の住宅の家賃相場を調べてみると良いと思います。
間取り、築年数、駅からの距離、種別(戸建て、アパート、マンション)で絞るといくつか参考になるデータが拾えると思います。
【家賃相場を考えるのに関連しそうな情報サイト】
・【2022年】過去10年間の公示地下推移から読み取る住宅地価動向(三菱UFJ不動産)
やむを得ず要求に応じるとき
交渉の結果、貸主が当初提示した金額どおりに応じざるを得ない結果となった場合、それでもまだ粘りたい!という方はこちらの交渉をしてみてください。
- 更新料の減額
- 次回の更新時に金額の減額も含めて見直す協議をするという、覚書の締結
とくに二番目の覚書の締結は依頼をしづらいかもしれませんが、通常、家賃を見直すといっても減額されることはほとんどないと思います。
でも、今回の更新時の値上げに納得できない、一時的な地価高騰の影響が大きい、という場合については、覚書に「減額の余地」を入れておくことで約束を反故にされるのを防ぎます。
まとめ
交渉するというのは面倒くさいなという気持ちが過ぎると思いますが、契約書で双方の権利として「協議すること」が認められている以上、絶対に交渉したほうがいいです。
契約更新の書面も「希望更新価格」と表示されていることが多いと思います。
”希望”という文字が入っていれば、なおのこと、交渉をためらわないほうがいいです!
相手にデータを要求するとか、面倒をかけて何か言われるのが怖い・・と思う気持ちもあるでしょう。
でも、家賃は上がることはあっても下がることはほとんどありません。
わたしは貸主に
「一度上がった家賃を下げる交渉は通常ないと思うし、御社としてもやらないのが普通でしょう。だからこそ、今回の値上がりがそのまま何年も維持されるほどの価値が上がっているのかどうかを今の段階でしっかりデータで判断したい。それがない限りは受け入れがたいです。」
とハッキリと伝えました。(ハッキリ伝えるけど「受け入れられない」という言葉は強いので「受け入れがたい」に留める)
そうしたら、結局、先方はデータなどを見せて協議をすることなく値上げを取り下げて現状維持となりました。
あきらめず面倒がらずにぜひトライしてみてください!
※もし契約書に「甲乙、双方協議の上」という文言が見当たらなかった場合
契約書に、お互いが協議して決めましょうという趣旨の文言がなかったとしてもあきらめないで大丈夫です。
なぜなら、契約というのはそもそも「お互いが納得して合意する」というのが大前提にあります。
書面に記載がなかったとしても、『契約の基本原則は、お互いが納得できる形で合意することなので、きちんと相談させてください』と伝えて、あきらめずにチャレンジしてみてください!
(2022/10追記)
この記事を書いたときと、その2年後の契約更新時は、家主からの希望価格がかなり値上げされていました。
しかし、上記のように交渉スタンスで臨んだところ家主からの明確な回答はなく現状維持となりました。
さらに2年後の今年に連絡を受けた契約更新価格は上がっていました。
ただし、担当者は変わり、値上げ幅も常識の範囲というか「まぁ、情勢を考えると仕方ないよね」という範囲の金額でした。(過去2回のやりとりが前任者から引き継がれ、たぶん”めんどうな賃借人”と認識されたかも?!)
値上げ幅が明らかに過去2回と違うので、どちらかというと「交渉モード」ではなく「お願いモード」でやりとりをしました。
具体的には
「貴殿からの値上げ希望額を受けるとすると生活への影響は少なくはない。しかし不動産関連の価格が上昇していることも当方は承知している。とはいえ生活関連価格や税金も上がってきているので、貴殿の希望値上げ分の50%値上げで着地できないか」
という趣旨のことを伝えました。
その結果、先方希望値上げの半分で契約更新となりました。
コロナ禍、世界情勢、人件費の高騰など、企業側としても業績にマイナスとなる要因はいくつもあると思います。
もちろん、生活者だって年々苦しく、厳しい状況になってきているわけですが、お互いが歩み寄って良い関係性を構築できるように努めていけるとよいですね。