スランプを防ぐ!基本はなぜ大切なのか?基礎練習の意義を解説

基本練習・基礎練習はどの競技にも必ずあるものですが、日々の練習で毎回実施できている人とできていない人、けっこう分かれると思います。

わたしも学生の頃は「基礎練ってつまんないなぁ」「できているのになんでやるんだろう」と感じておろそかにしていましたが、競技力を上げたいのであれば、やはり基礎練習はとても大切です。

上達してくると練習メニューが増えて限られた練習時間のなかでは、ついカットしがちですが、毎回の練習メニューに必ず組み込んで実践している人のほうが結果的に競技成績が伸びていると思います。

そこで、この記事では、”つまんない”、”できているから大丈夫”と思われがちな基礎練習について、あえて毎回やったほうが良い理由、意義を解説します。

少しでも前向きな気持ちで「基礎練やろう!」と思ってもらえたら嬉しいな。

 

 

トップアスリートに学ぶ「基礎練習の意義」

最近見たスポーツ関連の番組で、たまたま同じ競技の元トップアスリートと現トップアスリートが基礎練習を大切にしている様子が放映されていたので、ご紹介します。

一人は体操の内村航平さん。いわずと知れた方ですね、2008年の北京五輪から4大会連続出場のメダリスト。体操界のレジェンドです。

もう一人は同じく体操の橋本大輝選手、東京五輪の個人総合での史上最年少金メダリストです。

内村さんはNHKの『奇跡のレッスン』という番組で高校生たちに指導するなかで「基礎練習の意義」を伝えていました。

『奇跡のレッスン』では通常5~7日間のレッスンが行われますが、レッスン2日目は体操の基本である「倒立」がどれくらいできるかをまず学生たちにやってもらいます。

教えている学生は強豪校の体操部員ですが、1分経過する前にバランスを崩して落ちてしまったり、終わったあとに二の腕をさすっている子もいました。

 

そのときに内村さんは学生たちに「倒立はすべての技の基本」ということを伝え、さらに

「倒立1分を自然な呼吸でもできるくらいにやる、中国の選手は10分やっている。試合会場でもやっている。」

「若いと勢いでやりがち、感覚でやりがちだけど試合の緊張した場面だと以外とズレる。だけど感覚を言語化することで対処法が見つかる」

(NHK BS『奇跡のレッスン~男子体操 内村航平 美しい演技は 突きつめた基本の先に』より引用)

ということも話されていました。

↓上:倒立はすべての基本!と伝える内村さん, 下:学生たちの倒立を修正する様子(腕の位置が前にあると腕や肩への負荷が大きい、真っすぐの位置にすると各部位の重心位置がそろってキープしやすい)

ちなみにレッスン2日目は倒立のみで終了、3日目も、やはり基本の「着地」にかなり時間をかけていました。

内村さんが話していたように、基本となる動きがどれくらいできているか?を毎回分かっていれば、失敗が続いたとしてもどこを改善したらよいかすぐに分かるし、スランプに陥ることもかなり防げると思います。

 

橋本選手は、NHKのスポーツ×ヒューマンというドキュメンタリー番組のなかで、身体ほぐしと基礎練習にたっぷり時間をかけている様子が映っていました。

他の選手は早々に種目の練習にとりかかっていましたが、橋本選手は自分のペースでじっくり身体ほぐしに1時間、各種目の基本動作に1時間取り組んでから技の練習を開始。基本の動きも動画で確認していました。

また、年末の試技会を控えた練習では鉄棒で失敗が続いていた技に悩んでいる様子でしたが、高校時代の恩師がたまたまその様子を見ていて「つま先が緩んでいるから全身に力が入らないのでは」とアドバイスされていました。

その技では「つま先に力を入れる」は基本の動作で、つま先の状態一つで身体のバランスが崩れるようです。恩師のアドバイスを受けて改めて意識してチャレンジしたところ失敗を食い止めることができた様子も紹介されていました。

橋本選手のように基礎を大事にしていても「抜けてしまうこと」があるというのも覚えておいたほうがよいポイントですね。

 

 

すぐにできるようになりたい人ほど陥りがち?ショートカットしてしまうクセを知る

パーソナルトレーニングで児童・学生を教えていると、ほぼ100%の確率で基本の注意点を忘れてしまうトレーニングがあります。

天井から吊るした布を手に巻いて逆さまの体勢になってから開脚をするこの姿勢。先ほどの倒立と似ていますね。

腹筋や背筋などの体幹を鍛えつつ、開脚するときには脚を倒す勢いにも気をつけないとバランスが崩れるため難しい姿勢です。

この姿勢になるには段階があり、①まず身体を小さく丸めた体勢のままでキープする。

そして次が、②そこから脚をまっすぐ伸ばす、おへそから脚だと思って天井に突き刺すように伸ばすと安定します。(各部位の重心位置をなるべく一直線になるように合わせる)

そしてその次に③開脚。

苦戦しつつも①②ができて③にチャレンジするときに、ほとんどの子が②をショートカットして①の体勢から③にチャレンジしたり、②をきっちりやらないまま③にチャレンジして失敗します。

ちなみに「②までで止めておいて」と伝えるときちんとできる。それを確認してから「では開脚しよう」と促すとこれもしっかりできます。

おそらく「できるようになりたい」という気持ちが高ぶるのか、わたしが②をきっちりやってから③をやるように伝えても、つい、急いで③にチャレンジしてしまうみたいです。

 

こういう現象はほかの競技やトレーニングでもわりとあるのではと思います。

先ほどの橋本選手の「つま先への力」もそうですし、内村さんが指導されていたレッスンでも、倒立の基本ができて初めて次の段階のスイング倒立(平行棒に両手でつかまって脚をまっすぐ前後に振りながら素早く倒立姿勢になる)に繋がるという話もしていました。

スイング倒立も勢いでできてしまう場合もあるので、それがクセになってしまうと正しい段階を忘れてしまうということのようです。

段階的にむずかしくなっていくスキルは、その前段階の積み重ねがきっちりできている必要がありますが、最終段階のみに意識が集中したり、勢いでできた経験があると大事な途中の段階が抜けてしまう

そこを常に頭において練習できるとパフォーマンスも安定してきます。

 

ヒトの身体は厄介?できていることでも練習しないとできなくなる

一度習得した動作は忘れない、とくにゴールデンエイジ期(8~11歳)の頃に獲得した運動動作は身体が永久的に覚えているとも言われている人間の身体ですが、

一方で、完成度100%でできていた動作でも継続して練習していないと、再現性100%を維持できないのも身体の特徴です。

 

つい「もう完璧にできている」と思う基本動作は「やっていることに意味があるのか?」と考えてしまったり、「できない技の練習に時間を使ったほうがよいのでは」と思いがちですが、

基本動作が完成度100%、再現性100%でできているほうが、むずかしい技の習得は絶対に早いです。

そして、できていると思って基本練習を止めてしまうと、確実に完成度も再現性も落ちます

 

基礎練習は「できた・できない」だけでなく、身体が使えているか?も確認しよう

モチベーションの維持がむずかしい基本練習ですが、絶対に毎回の練習に入れたほうがいい。

できれば「できた・できない」で確認を終えるのではなく、「もっとより良い動きにするには」とか「身体のどこを使っているのか」も含めて確認できるようにしておくと継続しやすいです。

先ほどの内村さんも番組のなかで

「面白くないんすよ、基本て」「でもそこに質の高さを求めだすとどれだけやっても足りない」

「基本を突きつめた人しか行けない”ゾーン”がある」「誰でもできることを誰もができない領域までやれるかどうか」

(NHK BS『奇跡のレッスン~男子体操 内村航平 美しい演技は 突きつめた基本の先に』より引用)

と話していました。さすがレジェンドの言葉は違いますね!

もう、本当にそのとおりです。

わたし自身も、そしてわたしが関わっているパーソナルトレーニングの児童・学生の多くは審美系競技者なのでとてもよく分かります。

体操もそうですが、演技の美しさや素晴らしさを追求している競技者は、ぜひ、基礎練習も「どれだけ美しく、余分な力を入れずにできるか」などを考えて取り組めると、確実にパフォーマンスアップにつながります。

 

毎回続けていると必ず身体の調子・サインに敏感になれるはず

基礎練習を毎回取り組めていると、スランプを防ぐ以外にももう一つ「ケガを防げる」メリットがあります。

毎回同じストレッチ、筋トレ、基本の動きを欠かさずにやっていれば、ちょっとした違和感にも敏感になれます。

なんか疲れが残っているな、とか、伸ばしづらいな、とか、スムーズに動かないな、など。

ちょっとした身体からの”違和感サイン”を受け取れれば、練習でも無理をしない、無意識に気をつけることができると思います。

とくに大きな試合前になると、どうしてもがんばってむずかしい動きの練習に特化することが多いと思うので、やりすぎてケガをすることがないように、ふだんから基礎練習を習慣にしてみてください。

 

コーチ、先生の伝えていることを改めてしっかり聞いてみる

『奇跡のレッスン』で内村さんに教わっていた高校生たちを指導している監督は、なんと内村さんの学生時代の同期という方でした。

ということは、競技に対する取り組み意識も相当高いと思いますし、「基本練習の大切さ」はおそらく内村さんと同じくらいの温度感なのではと想像します。

実際、番組のなかでも

「普段同じようなことを言っていても内村が言うとこれだけ違うんだな、と。」

「子どもたちの心をどれだけ動かせるかが重要なんだなと感じた」

(NHK BS『奇跡のレッスン~男子体操 内村航平 美しい演技は 突きつめた基本の先に』より引用)

と話していました。

たぶん、ふだんから生徒たちに基本の注意点などはかなり伝えていると思います。

でも、先生・生徒の関係が慣れてしまうと伝わらないことは多いです。

これは私も実感することであり、教える側としていろいろ試行錯誤していますが、パフォーマンスを上げるのに重要なポイントをいかに定着させるか、いかに常に生徒が意識して取り組めるようになるのかは、本当に悩ましいです。

教える側の工夫はもちろん必要なのですが、ぜひ、教わる立場のみなさんもコーチや監督が常に口にしていることを改めてしっかり聞く意識を持ってもらえたらと思います。

きっと、再確認できたり新たな気づきがあったり、パフォーマンスアップに役立つ基本的な注意点をおさらいできると思います。

 

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