脚を太くしないで少しでも速く走るにはどうしたらよい?

(この記事はバレエやダンスなど「審美性」を必要とする競技をしているために、体型を維持したまま少しでも速く走れるようになりたい人に向けた記事です。短距離走をメインに練習しているひと向けの記事ではありませんご了承ください)

少し前になりますが、体幹トレーニングに来ている学生さんから「50mを速く走るのはどうしたらよいか?」という話がレッスン中にありました。「何を改善したらよいでしょうか・・」と。

運動会を控えているものの、タイムがあまり速くなく気になっている様子でした。

実際の走りを見ないことにはどういう課題があるのかはわからないため、まずは走っている様子を動画で送ってもらうように伝えました。が、動画を見る前から「これは・・たぶんむずかしい課題かも」と感じていました。

というのも、ふだんはバレエをしている学生さんなので、手脚は細く柔軟性もかなり高い、手脚の長さも相当長い

ご覧のとおり、わたしと比較すると、もっっのすごい違いがありますね。最近の若い方は本当に皆さん脚長スタイルです!

(長さそのものも、身長比で見ても、もはや昭和生まれとは雲泥の差・・)

手脚がこれだけ長く骨盤もやや小さめ、骨格筋がまだ発達段階の年齢とはいえ、短距離を速く走るための体型とは真逆なわけです。

この体型を維持しつつ、速く走る。

けっこう、むずかしい課題にぶち当たりました。

走るときに使う筋肉群

まずは走るときの脚の運びや筋肉群についてかんたんに解説をしておきます。

下記は走っているときのモーション図。青色で示している右脚(*)の運びに注目してください(手書き&あまり上手でなくてすみません)。

(*)太ももやふくらはぎを含む場合は「脚」、足首から下のことを表すときは「足」と表記しています

右のつま先が地面から離れて前に脚を振り出し、再び右足が着地するまでの一連の流れです。

この細かい動きのなかで、主に力を発揮する筋肉を示しているのが下図です。

つま先が地面から離れて、ちょうどひざが重心の真下あたりに来るまでは、緑色の①腸腰筋(背骨から骨盤、大腿骨(脚の骨)をつなぐ筋)、②大腿直筋などの四頭筋(前もも)、③前脛骨筋(すね)が主に筋力を発揮しています。

そして、ひざが前に出始めるあたりからピンク色で示した④大臀筋(おしり)や⑤大腿二頭筋(太もものうら、ハムストリングス)が主に使われ、再び着地する手前で③前脛骨筋(すね)から、青色の⑥ヒラメ筋・腓腹筋(ふくらはぎ)の筋力が主に発揮されます。

腸腰筋①とヒラメ筋⑥以外の②~⑤の筋肉は、外側の速筋繊維の割合が多い筋肉なので、鍛えていくと大きく、太くなります。(速筋線維の割合は大腿直筋で約7割、外側広筋で約5割といわれています)

そして短距離のスピードを爆発的に上げたいなら②~⑤の筋肉を主に大きく鍛えていくのが王道です。

つまり、速く走るためにはバレエとは相反するトレーニングが必要となるわけですが、今回の課題には「体型は変えないこと」も含まれます。

また、そもそも運動会まではあまり日数もなかったので、筋力を鍛えようにも限界があります。

体型を維持しつつ、少しでもタイムを上げるための工夫

では、現在の体型を維持したままでは何もできないのか?というと、そういわけでもありません。

動画を確認したところ、爆発的にタイムは伸びないけど、今よりはタイムを上げるための工夫をできる余地はいくつかありました。

ポイントは4つ。

  1. ストライドを大きくしすぎない
  2. 足の接地回数を多くする
  3. 脚は”おしり”から出すイメージを持つ
  4. 上半身を立てて、腕は真後ろに”引く”

順番に解説していきます。

 

①ストライドを大きくしすぎない

相談をいただいた学生さんの走りを確認すると、予想どおり、ストライドがやや大きめでした。

そして、脚や足首のバネがバレエで鍛えられていることもあって、上に跳び上がるような(頭が上下に動いてしまう)感じで、力の使い方がとてももったいない走り方でした。

そこでまずアドバイスの1つ目は「ストライドを大きくしなくてよい」ということ。

短距離走においてストライドが大きいことが絶対ダメ、ということではありません。むしろ、ストライドは大きくするように指導される場合が多いかと思います。

あくまでも今回のように、股関節の柔軟性が高く、かつ、太ももの筋肉が大きく発達していなひとは、脚を前後に素早く振り戻すことがうまくできず、ストライドが大きいことが逆に脚の回転を遅くさせてしまう可能性があります。

下記の図、左のようにストライドを大きくとることで、右に比べて後ろの脚を前に移動する時間にロスが生まれます。

股関節(とくに前後の)の可動域が広い人は「大きく脚を前に出そう」と意識していなくても、体が無意識にそうなってしまっている場合もあると思います。

なので、あえて意識的に「脚は大きく前に出そうとしなくて良い」ということを念頭において走るように伝えました。

②片足が着地のタイミングで反対の脚をすぐ上げる、接地回数をなるべく多くする

そして、ストライドを大きくしすぎないために「足が地面に着地するタイミングと反対の脚を上げるタイミングを同じにする」というのが2番目の改善点。

といっても、これを完全に同時にできるようにマスターするのはかなりむずかしいので「足が地面に着いたらすぐに反対の脚を上げる」という意識で動かしてもらいました。

これを意識すると、必然的に歩幅はあまり大きくできなくなります。そして、脚の回転数を上げていくのが狙いです。

そのためのトレーニングはこちらを紹介しました。

”もも上げ”と思ってしまうと、太ももを必要以上に(地面と平行以上に)上げてしまうと思うので、太ももは地面と平行の高さを目安に「地面への着地したらすぐ上げる」意識が良いと思います。

③脚は”おしり”から動かすイメージを持つ

走る行為は”脚”がメインなので、太ももやふくらはぎでがんばってしまいがちですが、②を効率よく素早くやるためにも、太ももだけが太くなるのを防ぐためにも、「脚はおしりから出す」を意識してもらいました。

脚の振り上げは太もも裏にあたるハムストリングスを大きくする動きでもあるので、脚の筋肉を太くしすぎない意図もあります。

④上半身は前に傾けすぎず、真っ直ぐを意識、腕は”真後ろに引く”

速く走ろうと思うとどうしても「前に、前に」と上半身が前に傾いていきます。

でも、②をしっかりやるには、あまり前に傾きすぎるとうまくできなくなります。

また、脚同様に身長の割合に対して腕も長いため、走っている最中は、ひじから下が後ろに流れてしまっているような走りでした。ひじから手までがダラリと後ろに流れてしまうと前に体を進める推進力のロスになるのでここも改善点でした。

上半身は前に傾けすぎず、腕は振るというより”真後ろに引く”イメージで動かすと走り方がかなり変わってきます。

改善ポイントは一つずつ積み上げて実践

今回は主に4つの改善ポイントを上げましたが、これをいっぺんに実践しようとするとうまく走れないこともあると思います。なので、改善は段階を踏んで一つずつ積み上げて改善するのが良いと思います。

走ることに限りませんが、スポーツのフォームを変えるときは一度に全部変更しようとしてもフォームが崩れるだけでかえってマイナスなパフォーマンスになることもあるので、焦らずに一つ一つ取り組むことが大切です。

練習後に脚の筋肉をほぐして、太くなるのを阻止

今回は、あくまでも現状より少しでも速く走るための改善なので、練習終わりはしっかり、太ももやおしりの筋肉をほぐして硬くなったり大きくなったりするのを防ぐことも重要なポイント。

ということで、練習後には太ももとふくらはぎは必ずほぐします。

フォームローラーのようなものでほぐしてもいいですし、手をグーにして指で軽く太ももをマッサージするように動かすやり方でもほぐれます。

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いかがでしたでしょうか?

バレエやフィギュアスケート、ダンス、新体操など「審美性」を必要とされる競技に取り組んでいると脚の筋肉を大きくしたくない、太くならないように注意している方が多いと思います。

とはいえ、体育や運動会ではちょっとでもタイムを上げたい、速く走れるようになりたいという気持ちも一方であると思います。

体型を維持したまま少しでもタイムを上げたいと思った方は、ぜひ参考にしてみてください。

(なお、冒頭に記載したように、本格的に短距離が速くなりたい人向けではないので、そういうひとは短距離を専門に研究している専門家のページを参考にしてくださいね)

【参考文献/参考サイト】

  • 石井喜八・西山哲成編著「スポーツ動作学入門」市村出版
  • 深代千之/川本竜史/石毛勇介/若山章信著「スポーツ動作の科学」東京大学出版会
  • 江原義弘監修、勝平純司・山本敬三著「姿勢と運動の力学がやさしくわかる本」ナツメ社
  • 【運動会対策】鈴木福くんに50m走速くなる方法を伝授 足の速さは才能じゃない!! https://youtu.be/q9wm5bk3X2M(【走りの学校】足の速さは才能じゃない!!チャンネルより)

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