この記事は、審美系競技に取り組む競技者たちの体型および栄養管理について考察した記事です。
第二次性徴期を迎えると女性ホルモンの影響を受けて体型に変化が出てくるので、そのタイミングで体重や体脂肪のコントロールを考え始める学生もいらっしゃると思います。
当スタジオでは、アスリートのための栄養管理システムを導入し、競技ごとの活動量に合わせた消費エネルギーと日々の食事バランスを評価できるサポートも実施しています。
審美系競技者を対象に栄養管理をされていた方の過去の論文などを参考に、選手たちの実際の栄養管理から見える課題などを踏まえて、日々、知見のアップデートに努めています。
より良い栄養改善とパフォーマンス向上に貢献できたらと考えています。少しでも、減量や栄養管理に悩む方のご参考となれば幸いです。
審美系競技者の平均的な体型
新体操や体操、バレエやフィギュアスケートなどの競技パフォーマンスの向上には、芸術性や見た目の美しさが求められますが、他の競技者の平均的な身体組成と比べてみても、体重や体脂肪率に大きな違いがあるのがよく分かります。
体重は総じて45k〜52kg、体脂肪率は13%前後とかなり低い数値です。
体重を減らしたい理由
体重を減らしたい理由は見た目の美しさだけでなく、競技特性としてジャンプやピルエット(多回転ターン)、不安定なバランスキープの練習量が多く、重い体重は繰り返しの反復練習で足首やひざ、腰などに負担をかけます。
そのため、体脂肪率のみならず、体重そのものを落とすことが求められる傾向が強いと思います。
最近でこそ、低体重や低栄養のリスク、無月経の危険性についてオープンになってきていて、有名アスリートからも啓蒙的な発信もありますが、「コーチから体重について指摘されている」という声を今でも学生から聞くこともありますし、審美系競技と減量は切り離せないテーマと感じています。
研究論文からわかる、栄養管理の実際~摂取エネルギーが大幅に減っていても体重が落ちていない事例~
審美系競技の栄養管理についての研究論文では、競技者の実際の食事内容や活動量とのエネルギーバランスを調査している事例もあります。
下記はその一例ですが、1,900kcalの消費エネルギーに対して摂取エネルギーがマイナス600kcalとなっています。
こうした状態で練習を続けていてもなかなか体重が落ちないという現実があるようです。
ほかの論文では2,500kcalの消費に対してエネルギー摂取は1,200kcalという記載もありました。上位の選手であればあるほど、身体も省エネ化してきているので減量が難しくなると考えられます。
また、食事内容についてもご覧いただくとわかりますが、身体に必要な栄養素を考えて制限しているとは言い難く、おそらく食べても胃があまり膨らまないような容量が少ないことを意識したメニューと考えられます。
裏を返せば必要な栄養素を考えずにカロリーや食事容量そのもの(重量)だけを制限しているメニューなので(容量は少ないが脂質に偏り、代謝に必要なビタミン類が摂取できていない)、体重が落ちないのでは・・とも感じます。
脂肪3kgを2ヶ月かけて、段階的に落としていく基本の考え方
以前書いたこちらの記事では軽く触れましたが、もう少し具体的に掘り下げて、かつ、無理なく実現するための対策案としてまとめました。
ーーーーーーーーーー
栄養管理の専門家による減量の考え方を例に示すと、脂肪3kgを2ヶ月(60日)かけて段階的に落としていくとしたら
- 1kgの脂肪エネルギー:7,200kcal(1gの脂肪は9kcal、水分などを除いたおおよそのカロリー)
- 減量エネルギー総量:7,200kcal×3kg=21,600kcal
- 1日あたりのマイナスエネルギー:21,600kcal/60日=360kcal
となります。
これを食事のみで改善するとしたら、活動量に対して常に栄養摂取が360kcal下回っていることが必要、トレーニングのみで改善するのであれば2ヶ月間毎日360kcal分の活動が追加で必要になります。
(食事のみで改善はふだんの食事が2,200kcalの場合1,840kcalに調整 or トレーニングのみでの改善は、ふだんの活動量が2,200kcalとしたら2560kcalの活動量に設定)
◎食事改善のみで減量
活動量に対して360kcal足りない状態の食事を2ヶ月毎日続けるというのは、身体へのダメージのみならず精神的にも良くないのでは・・と想像します。
あるいは、毎日360kcalの調整ではなく、たとえば1週間のなかで軽重つけたとしても(毎食半分ずつなど極端に摂取カロリーを下げる日や好きなように食べるチートデイをつくるなど)、2ヶ月の継続は長く感じるでしょうし、何よりも利用可能エネルギーの低下が心配です。
利用可能エネルギー ÷ 除脂肪体重(FMM)
・・・ 総エネルギー消費量から運動によるエネルギー消費量を引いた値(=利用可能エネルギー)を、除脂肪体重で割った値。
この値が、30kcal/kg/FMM/day未満の状態が長く続くと、女性の場合は月経不順や無月経、疲労骨折になるリスクがあるといわれている。
◎トレーニングのみで減量
一方、トレーニングのみでの改善はどうかというと、こちらも2ヶ月毎日360kcalの活動量を増やすというのは、かなり大変と思います。
身体の大きさや日頃の運動量によりますが、イメージ的にはランニング30分(5~6km/分)+筋トレ&ストレッチを10分ずつで消費されるかどうか、くらいではないかと思います。
ふだんの練習量に加えてそれを毎日2ヶ月続けるというのはあまり現実的ではないのでは・・と感じています。
とくに競技歴が長く、長い練習時間に慣れてしまっている選手の身体は省エネモードにもなっていると考えられます。その場合には、より強度の高いトレーニングやふだんとは違うトレーニングを取り入れるなどが必要となってきます。
◎食事とトレーニングの両方で減量
実施するとしたら、やはり食事制限とトレーニングの両方を行うのが現実的と考えています。
たとえば、毎日180kcal分のトレーニングを増やしつつ、これまでの食事から180kcalマイナスになる調整でも良いですし、1週間のスケジュールに応じて(練習量が多い日・少ない日、休養日等)、1週間でトータル2,520kcalマイナスになる計画を立てるのも良いと思います。
なお、実際の体重減少は体内の水分量や体調にも左右されるので、比例直線のような右下がりにはならないと思いますが、リバウンドせずに安定した体重を維持するには段階的に落としていく対策が必要と思います。
◎成長期の間は栄養過少状態を長く続けるべきではない(試合に合わせた調整を!)
審美系競技の特性として体型・体重コントロールの必要性や重要性は理解していますが、それでもやはり成長期の間は「常に栄養が足りない」という状態の期間が長いことは将来の健康リスクが高く、おすすめできません。
成長期は基本的に体重が増えていくのが前提として、減量は試合に合わせたスケジューリングで調整してほしいと感じています。
もちろん、一年の間で体重の増減があまりにも激しいのも身体には負担なので良くないのですが、「常に栄養過少状態は危険である」ことはぜひ忘れないでほしいと思います。
栄養管理システムでのシミュレーション結果
さきほどまでの減量の考え方を基本に次の仮定で、スタジオで導入している栄養管理システム(アス食もんしんナビ)を使って、ふだんの活動量と栄養摂取量を算出してシミュレーションした内容をご紹介します。
以前スタジオの栄養調査にご協力いただいた方々の、学校での活動量や食事内容を参考にしています。
また、アス食もんしんナビはアスリートを対象としているため、競技別の身体組成の特徴や活動指数(Mets)を競技ごとにかなり細かく設定できるため運動の内容も細かく設定しています。(詳しくはリンク先を参照ください、設定されている競技数は50種です)
そのため比較的、現実性のある内容です。
- 14歳(中2)女子、身長157㎝、体重45kg、体脂肪率不明(システム上では競技特性に応じた平均的な除脂肪体重量で計算)、月経あり
- フィギュアスケート歴7年、学校がある日の練習量2~3H前後、休日は5~6H、ふだんの消費カロリーは同年代のスポーツをしていない学生に比べるとかなり高い(上位レベルの競技者)
【平均的な1日の活動量と栄養摂取量を比較】
- 平日、授業で体育あり(陸上のハードルで準備体操など含めて45分)
- スケートの練習はトータル3時間(整氷時間、ストレッチ時間、休憩等含む)
- 練習内容は、息が上がらない程度の動作、ジャンプ練習、息が上がる動き、曲かけ練習など細かく設定
- 徒歩通学(学校・リンク)は往復80分、授業やその他の活動で座っている時間7.5時間、睡眠7時間、それ以外の時間は食事や身支度などの身の回りのこと、リラックスタイムとして設定
- 昼食は給食を想定
この仮定では、平均的な1日の活動量は2,691kcal、栄養素の摂取量は2,695kcalで、ほぼつりあっている状態です。運動によるエネルギー量は782kcal、同年代の平均的な女子の活動エネルギーに比べると高く、基礎代謝そのものも競技レベル上位者として設定しているので同じく同年代の女子より高い設定です。
傾向としては、脂質がやや過剰で糖の代謝に必要なビタミンB1や、女性アスリートが欠乏しやすい鉄分がやや不足している結果となりました。
なお、以前、栄養調査にご協力いただいたお客様(10~60代)の傾向でも、比較的どの年代においても脂質がやや過剰・ビタミンB1は不足傾向にありましたので、意識していないと過剰・不足しがちな栄養素かもしれません。
【栄養素を意識した食事改善メニューの例】
さきほどの食事メニューから
- ケース1:食事でマイナス200kcalにする
- ケース2:食事でマイナス400kcalにする
- ケース3:食事とトレーニングでマイナス540kcalにする(食事は2と同じ、ランニングを追加)
という想定で食事メニューを変化させてみました。(青字が変更したもの)
そして、その結果が下に続くエネルギーバランスや栄養摂取量の変化です。
ケース3の追加ランニングは15分(6~7km/分)です。
食事メニューの改善を栄養素に着目して改善したことで、全体のカロリーは減っても不足していたビタミンB1や鉄分は増える結果となりました。
ケース3の利用可能エネルギーは31kcal/kg/FMM/dayと、ギリギリの水準なので、ケース3のよう
な状態を長期間続けることは避けたほうが良いです。
【カロリーのみに注目したメニューの例】
栄養素に着目せずにカロリーや容量そのものを制限すると考えると、わりとやってしまいがちなのが、ふだんの食事量を極端に減らしたり、いかにも「ヘルシー」な雰囲気の食事に変えることが多いのではと思います。
たとえばですが、先ほどの基本の食事内容を次のように変更したとします。食パンを容量が少ないものにしたり、おかずやごはんの量を半分にしたり、重量の少なそうなサラダにしたり。
そうすると、▲898kcalで大胆に減りますが、鉄分やビタミンなど必要な栄養素はさらに少なくなり、この事例では塩分はかえって増加しました。(ドレッシングの影響です)
いつもの食事の量を減らすというのは手軽なのですが、やはり成長期はとくに必要な栄養素を考えての減量を考えていかないと、上記のような場合には利用可能エネルギーが24kcal/kg/FMM/dayと大幅に落ちて、かつ30を切ってしましました。このような状態を何週間も続けるのは避けるべきです。
SNSなどの情報を参考にするときのポイント
栄養や減量に関する情報は書籍のほかにもSNS上にもたくさんあるので、情報そのものに困ることはないかと思います。
また、ざっと見る限り極端な食事制限のダイエットを推奨する流れも昔ほどは多くなく、必要な栄養素をきちんと摂取できるメニューを紹介している動画もわりとある印象を受けます。
ですが、「1週間でマイナス5kg」など、インパクト重視の情報はいまだに目立つので情報の取捨選択にはどうかご注意いただきたいと思います。
ポイントは「必要な栄養素を意識しているメニューか」「現実的に可能な目標数値」「サプリメントや特定の商品を紹介していない(PR案件ではない)」このあたりを注意して判断すると良いと思います。
まとめ
- 審美系競技者の体型は他の競技者に比べると体重、体脂肪ともに低く、将来の健康リスクを考えた対策が必要
- 競技で求められるスキルの特性ゆえ、体脂肪率ではなく、体重そのものの減少を求められやすい
- 減量は短期間ではなく、実現可能な期間で食事とトレーニングの両方で行った方が身体への負担が少ない
- SNSなどの情報を参考にする場合には、正しい判断軸をもって確認する
★パーソナルトレーニングでは体型管理も含めたトレーニングの実施も可能です。体験申し込み時にその旨、ご記入ください。競技力アップを目指す児童・学生であれば男女問わず、どの競技の方でも歓迎です。
【参考文献】
- 2005 小清水 孝子, 柳沢 香絵, 樋口 満「スポーツ選手の推定エネルギー必要量 (特集 スポーツにおける食事・栄養の役割と意義)」(Journal of training science for exercise and sport )
- 2008 小清水孝子「審美系女子スポーツ選手の減量時の食事における問題点 (特集 スポーツと栄養–ジュニアからトップレベルの食事管理の実際)」(臨床スポーツ医学)
- 2011 尾原 遼平, 斉藤 篤司, 小清水 孝子「競技レベル別にみた大学生アスリートの食事に対する意識」(健康科学 = Journal of health science / 九州大学健康科学編集委員会 編)
- 2018 小清水孝子「審美系競技の栄養管理 (特集 現場で使えるスポーツ栄養学 ; 競技特性別スポーツ栄養学)」(臨床スポーツ医学)
- 栄養管理システム:アス食もんしんナビ https://www.yumekobo.jp/product/asumonnavi.html