練習を少し休みたい、でもなるべくスキルを落とさないために必要なこと

この記事は、スポーツ競技の練習を少し休んでいる間でも、なるべく競技スキルを維持できるようにするためにはどんな工夫ができるか?を解説しています。

大事な試合が終わって燃え尽きてしまった、周囲の人間関係や進学・受験で環境が変わった、など、忙しい日々が続くと心身共に疲れが出てきて「練習を少しお休みしたい」と感じることもあると思います。

一方で、「休みたいけど休んでパフォーマンスがゼロに戻るのは避けたい」「周りと差がつくのは仕方ないけれど、できればあまりスキルを落としたくない」という気持ちもあると思います。

パフォーマンス低下を恐れて無理やり練習を続けるのは心身に悪いので「休みたい」と感じたときには休むのが一番ですが、その期間が一ヶ月を超えるような場合には、休んでいる間のセルフトレーニングを工夫しておくことで復帰しやすくなります。

大事な試合が終わっていつもより長めに練習を休みたいと考えている方、所属チームを休会中の方、練習を休みたいけれどなんとなく”休むともったいないのでは・・”と感じて休むのをためらっている方の参考となれば幸いです。

 

内容はコンディショニングプログラムの考え方をベースにしています。

なので、ピーキングを決めて期分けトレーニングを実施するなど年間スケジュールを組んでいる方は、「オフシーズン中」の取り組みとして参考にしていただければと思います。

 

 

練習を休むとどれくらいでパフォーマンスは落ちるのか

 

トレーニングの原理・原則

一般的にトレーニング効果を得るためには、①過負荷の原理 ②可逆性の原理 ③特異性の原理、の3つの原理があります。(参考文献1.第4章参照)

  • ①過負荷の原理:日常生活動作の強度以上でトレーニングする必要がある
  • ②可逆性の原理:トレーニングよって身体機能は高まるが、中止すると得られた効果は失われる
  • ③特異性の原理:得られるトレーニング効果は、トレーニング種類や方法に対して特異的なものになる(ex.持久力トレーニングで持久力の向上は期待できるが筋力増強には効果的でない)

 

このうち、②の可逆性の原理をもう少し詳しく説明すると、練習を中止してからどれくらいでパフォーマンスが落ちるのか、また、練習再開後に元に戻るまでどれくらいかかるかは、スキル獲得までの実施期間による、と考えられています。

短期間で得られた効果は中止後に短期間で元に戻り、長期間かけて得られた効果はいずれ元に戻るものの、比較的長期にわたって効果は持続されるともいわれています。

 

わたしの個人的な感覚としては、年単位で取り組んでいるスポーツであれば1ヶ月程度の練習中止はそれほど影響ない感じでしたが、2〜3ケ月完全に休んでしまうと取り戻すのに半年くらいはかかった印象です。

もちろん、年齢にもよるのでわたしのような中年はそれくらいかかりますが、若い方や学生はもう少し早く取り戻せるとは思います。

 

休まずに練習をつづけたほうがやっぱり良いのか?

では、そうすると「やっぱり休まないで少し我慢してでも練習を続けたほうがいいのでは・・」と感じてしまう人もいると思いますが、これはこれであまり効果は期待できません。

先ほどトレーニングの原理を紹介しましたが、トレーニング理論にはもう一つ「トレーニングの原則」という5つの原則があります。(原理と原則の違いは、原理は根本的な仕組み、原則はそれに従うほうが効果が得られやすい、と考えてください)(参考文献1.第4章参照)

 

  1. 意識性の原則:トレーニング効果を効率的に獲得するためには目的や方法を十分に理解して行わなければならない
  2. 全面性の原則:偏りのある身体では強化部位は最大限に生かされない、全身をバランスよく鍛える
  3. 個別性の原則:年齢・性別・体格・体力・技術レベルなど、個々に応じたプログラムでなければならない
  4. 漸進性の原則:体力向上に従って負荷も徐々に上げていく必要がある
  5. 反復性・継続性の原則:休養を考慮し、週・月単位などで負荷の強弱をつけながら規則的に繰り返すことで効果を得られる

 

この5原則をすべて満たしているとトレーニング効果は得られやすく、我慢して練習するというのは、1.意識性の原則を満たさない(満たさないことにつながりやすい)ので、無理やり続けても思うような効果は得られないと思います。

なので、やはり「休みたい」と感じているなら休むのが賢明です。

 

 

競技スキルをなるべく維持するために必要なポイント

オフシーズン中のコンディショニングプログラムの目的は一般的に

  • 体脂肪が過剰に増加するのを防ぐ
  • 筋力、筋持久力を維持する
  • 骨や靱帯の強度を維持する
  • 技術レベルを維持する

と考えられています。(参考文献2.第21章参照)

これらの目的を具体的な取り組みに置き換えて整理し、次の4つのポイントにまとめました。

 

①心肺機能の強化、柔軟性などのフィジカル強化

持久性トレーニングによって心肺機能を強化したり、ストレッチによる柔軟性の向上は競技力向上にとても有益な要素です。

持久性トレーニングは骨格筋におけるミトコンドリアの容量と代謝回転を増加させ、筋繊維の酸化能力の向上、脂肪代謝能力の向上をもたらすと考えられています。(参考文献2.第13章参照)

柔軟性の向上は関節の可動域が広がることで動きやすさをもたらしたり、効率的に身体を動かすことができます。

どちらもパフォーマンス向上を支える土台であり、この部分が強化されることで競技スキルが維持しやすくなります。

持久性や柔軟性の重要性をわかっていても、ふだんの練習ではなかなか手が回らないことも多いと思うので、低強度の軽いランニング(数分でもok)や動きのあるストレッチなどをぜひ取り入れてみてください。

 

 

②異なるスポーツへの参加

同じスポーツを続けていると身体をコントロールする感覚、筋力の使い方、姿勢などはどうしても偏りがちです。

いつもとは違うスポーツにチャレンジすることで、神経系の機能に刺激を与えたり、身体の多様な使い方など気づくことも多いので、ぜひふだん取り組んだことのないスポーツを体験してみてください。

最近では単発で受講できるスポーツ教室も増えていますし、大きなアスレチック施設で遊んでみるというのでも良いと思います。(当スタジオのポールダンスも単発で受講いただけます!)

新たな体験で楽しく夢中になれると想像以上に動きますので、心肺機能も鍛えられます。

気分転換にもなるし、違うスポーツを経験することで復帰後の競技にプラスにはたらくことも期待できます。

 

 

③栄養面の工夫

成長期の児童・学生については、通常、練習の有無にかかわらず身体が成長のためにエネルギーを欲している状態なので、練習がない日でも食事内容を大きく変える必要はないといわれています。(参考文献3.Ⅰ章-2参照)

しかし、長期間練習を休む場合には、練習をしていた時期に比べれば全体的なエネルギー消費量が減少しますので、そのままの食事を続けていれば体脂肪が増えるなど変化してきます。

もし、休んでいる間に体重や体脂肪を大幅に増やしたくない場合には、主食や主菜の量を練習時より減らして、補食や間食を食べ過ぎないような工夫が必要です。大人も同様です。

 

 

④競技スキルの練習は週1〜隔週くらいで自主練習ができると良い

練習を休みたい理由、その競技の特性、練習環境にもよりますが、可能であれば頻度や練習時間を減らして自主練習できるほうが良いです。

「それでは休んでいる意味がないのでは…」と思われるかもしれませんが、ここでいう自主練習は”できるタイミング”、かつ”無理のない範囲内”で良いと思います。

たとえば、自宅や公園で気軽に自主練できる場合には、ストレッチや軽いジョギングをしたあとに少しだけスキル練習をしておく。

あるいは、習得するのに期間を要したスキルだけでも10〜20分くらい練習する。

ポイントは身体の感覚を忘れない程度に動かしておくイメージです。

 

どの競技も、筋力の強弱だけでなく神経系の伝達機能によって身体を巧みにコントロールすることが求められます。

頻度や1回あたりの時間は短くても良いので自主練習をしておいたほうが復帰後のパフォーマンスの戻りもスムーズになると思います。

 

 

休んでいる間は「自分の特徴」を知る機会

試合に出たり、競技成績を追い求めて厳しい練習しているときは、結果に目が向きがちですし思うような結果が出ないときにはひたすらがんばって練習を続ける傾向にあると思います。

練習を休んでる間は、そうした「パフォーマンス向上」とは距離を置けるので、一歩引いて自分を客観的に観察できる絶好の機会です。

ふだんの練習では気づかなかったことに気づいたり、スポーツ本来の楽しさを再確認できる良い機会なので、休むことで結果的にパフォーマンスが上がる可能性も多いにあると、わたしは考えています。

休むことを前向きにとらえて、上記のポイント①~④を実践しつつリフレッシュできるように過ごせると、心身共に健康でスムーズなリスタートが切れると思います。

 

★パーソナルトレでの「オフ中」の受講例★

当スタジオのパーソナルトレーニングでも「練習お休み中」の学生さんの受講例があります。

フィギュアスケートの学生さんは、柔軟性・筋力向上のためのトレーニングや心肺機能を鍛える要素を取り入れつつ、陸上でのジャンプ練習を動画に撮って休む前の状態と比較することでスキルの精度を確認しています。

氷上での激しい練習による筋肉疲労や筋肉痛が減少したせいか、硬直した感じが和らいで柔軟性は少しずつ向上していますし、身体の感覚を確認しつつトレーニングに取り組めているので、休むことがプラスにはたらいていると思います。

(2023年11月追記)

上記の学生が、先日およそ1年ぶりに試合に復帰しました。

そして結果は、なんと優勝です!すごい。

がむしゃらに練習する時期はもちろん必要ですが、気持ちがどうしてもついていかないときはそれに合わせた練習方法やトレーニングメニューに変えることで新たな突破口になった良い事例です。

 

そのほか、身体の一部分をケガしたことでやむを得ず練習を休むという児童・学生もこれまでに何名か受講しています。

同じように、ふだんの練習ではおろそかになりがちな柔軟性の強化やバランス感覚を鍛えるトレーニングを実施して、復帰しやすい身体づくりを実践していました。

 

当スタジオのパーソナルトレーニングに興味のある方は、下記もご参考ください。

小中学生向け体幹トレーニング(体験)

 

◎休みに関する動画はぜひこちらもご参考ください

 

 

【参考文献】

  1. 2019 河合祥雄「改訂版スポーツ・健康医科学」(放送大学大学院教材)
  2. 2020 スコット K.パワーズ、エドワード T.ハウリー「パワーズ運動生理学 体力と競技力向上のための理論と応用」(メディカル・サイエンス・インターナショナル)
  3. 2010 樋口満(監修)、こばたてるみ、木村典代、青野博(編)「小・中学生のスポーツ栄養ガイド スポーツ食育プログラム」(女子栄養大学出版部)

 

 

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